ナチュラルツイン 第34話 「大ピンチ、プリティライト」

作:冷凍石

 

前回までのあらすじ

 これまで何人ものGGD怪人を倒してきたナチュラルツインの二人。

 ここに来て秘密結社GGDも2大幹部が直接動き始めた。

 負けるな、力のプリティライト。戦え、技のプリティダーク。

 がんばれ、我等のナチュラルツイン。

 

 《ハテナ時空間》に引きずり込まれ、プリティライトはピンチに追い込まれていた。肩口で切り揃えられた黒髪が頼りなげに揺れている。白が映えるどこかパーティードレスを思わせるコスチュームも、くすんで見えた。気の強そうな大きい目が不安から視点を目まぐるしく変える。

「迂闊でしたね、プリティライト。ここには貴方の助けとなる仲間も太陽の光もありませんよ。ついでに私の能力も当組織比で2倍増しです。」

 プリティライトは、サンドラ−に指摘されるまでもなく激しく後悔していた。変身前の自分に挨拶だと一人で訪れたGGD幹部のサンドラー。実際、他の敵の気配はなく、そのふざけた態度に激昂し1対1の果し合いを挑むとあっさりと承諾を受けた。決闘は挑まれた方が場所を指定することになるがいいのかと念を押され、構わないと言い放った瞬間、《ハテナ時空間》に引きずり込まれてしまった。咄嗟に変身した後だったのは、不幸中の幸いだろう。

 見渡す限りの砂、砂、砂。そこには砂しか存在しなかった。プリティライトは空を見上げる。そこは黄色くにごった太陽の無い空。全ての必殺技を太陽に依存する彼女は、太陽が存在しないこの時空間では実力の半分も発揮できない。しかも、この空間からの脱出はサンドラーを倒さない限り不可能。相棒であるプリティダークに何度も思念を送っているが返事は無い。事態が好転する要素はどこにもなかった。

(い、いやだ、負けたくない。)

 常に自信に満ち溢れていたプリティライトは(敗北)その2文字に恐怖した。GGDは悪の秘密結社。これまで組織に逆らった者は男女子供の分け隔てなく死を与えられていた。犠牲者の骸を実際に何度も見てきた。何人かの女性は未だ消息が掴めていないが、間違いなく生きてはいないだろう。

 これまでの敵は、戦闘員、怪人を含め非常に弱かった。ピンチらしいピンチもなく、まるで猫が鼠を嬲り殺すように敵を倒し勝つことに慣れはじめていた。そして、その裏にある自分自身が死ぬ可能性については忘れようとしていた。

 相手の死については何の感慨もない。悪が滅びるのは自然の理だからである。だが、敗北=死は敵味方分け隔てなく常に背後に迫っていたのだ。それを絶体絶命のこの時に再認識し、プリティライトは奈落の底へ落ちるような恐怖を感じていた。

(超人的な力を持っているといっても普段はただの女子高生。危機に陥れば所詮こんなものか。まあ、それも面白い。)

 落胆とも喜びとも付かぬ感想を思い浮かべながらサンドラーは、怯えた相手に自分から戦闘を仕掛けることにした。

「サァンドスゥトォーム。」

 サンドラーの掛け声をきっかけに、突然、プリティライトを中心にして半径10メートルの範囲で砂嵐のように砂が巻き上がる。

『くっ。』

 戦闘という現実がプリティライトを我に返した。死が迫っているなら追い払えばいい。厳しい状況に間違いはないが、生き延びる可能性はゼロではない。

 砂嵐をただの目くらましと判断し、目を砂から守りながらもプリティライトはサンドラーの一挙一動から目を離そうとはしなかった。砂がパラパラと身体に当たる。その不快な痛みに顔をしかめながらも相手の出方を伺っていた。

 しかし、サンドラーは動かない。その異形の顔面からは表情は伺い知れないが、その素振りから奇妙な余裕を感じ、探りを入れることにした。

『目くらましを何時まで続ける気かしら?』

「さすがは、プリティライト。そんな姿になっても落ち着いていられるとは。」

 サンドラーから皮肉のこもった回答が投げつけられた。

 ふと、自分の姿を見たとき(ひっ)と一瞬息を呑んだ。服が溶けている。いや、正確には服の端から砂と化し崩れていこうとしていた。

『くっ、卑怯よ。サンドラー。』

 羞恥に頬を染めながらも、戦いの構えを解くわけにもいかず、キッとサンドラーを睨みつけた。

「ふっ、悪の組織に、しかも、悪の怪人に向かって卑怯などとは非常識な正義の味方ですね。しかも、私は別に人質をとっているわけでもない。私は正々堂々貴女と決闘をしている。ただ単に防具を破壊しているだけなのに、個人的な理由から卑怯呼ばわりですか?」

 さも、可笑しそうにサンドラーは肩を震わせた。

 もともと露出の多い衣装だったのだが、短かったスカートは今や殆ど消失しアンダーウェアーが丸見えになっていた。半袖で装飾のついた上着は今や布切れのように崩れ、臍や肩があらわになっている。肘まである白い手袋は、手で目を守っていたため一片も残っておらず、白いブーツも今は跡形も無い。このまま、砂塵の中に留まるのは得策ではないと考え、元凶と思われるサンドラーに連続攻撃を仕掛けるために、技名と共に大地を蹴ろうとした。

『うなれ、ライっ、えっ、ぶは…。』

 蹴ったはずの足が砂の中へ容易に沈み込み、バランスを失ったプリティライトは派手に砂を巻き上げうつ伏せに倒れこんだ。舞い上がった砂は砂嵐の砂と共に一斉に彼女に降り注ぎ、その姿を厚い砂の下へ覆い隠した。突如、砂漠を静寂が包む。幾ばくかの後に、砂漠の一角が盛り上がった。

『けほっ、けほっ、かはっ!!』

 口に入った砂に咳き込み、砂を纏いながらプリティライトは立ち上がった。身体に降り積もり付着した砂がさらさらと身体から離れていく。身体に付着した砂の大半が取れたとき、彼女は何も身に付けていなかった。

 プリティライトにとって服は、武器の収納等補助的なもので、無くなったからといってそれほど戦闘に影響しない。彼女の技のほとんどが打撃を主としていたので尚更だった。しかし、彼女も正義の戦士とはいえ多感な年齢。羞恥心を完全に封じ込めることはできなかった。

『きゃっ。』

 思わず膝を抱えるようにしゃがみこんだ。しかし、サンドラーからのひしひしと伝わる殺気が、すぐに彼女へ戦闘体制を取らせる。

「くくく、砂嵐を舞う砂があそこまで服を崩したのです。完全に砂に埋まればそういう姿になることは分かる筈ですが?」

 そんな、彼女の裸体を眺めながらサンドラーは、あざけりの言葉を吐いた。無遠慮な視線に嫌悪しながらも、構えを崩さず相手の隙をうかがうプリティライト。しかし、サンドラーはそんな彼女を更にあざ笑う。

「まだ、勝つ気でいるのですか、プリティライト。私の砂が貴方自身を砂に変えられないとでも思っていたのですか。服だけを砂にしたのは私の気まぐれにすぎません。」

 羞恥と怒りの入り混じったプリティライトの眼差しを受け流しながら、サンドラーは話を続ける。

「貴方に倒された手下達の無念を晴らすため、絶望にまみれた貴方の身体を少しずつ砂に変え、グズグズに崩していこうと考えていましたが、貴方の裸体を見て気が変わりました。我々のコレクションに加えて差し上げましょう。」

『コレクション?』

「論より証拠です。実際になってみればわかるでしょう。」

 サンドラーの背から羽のようなものが伸び震え始めた。それと同時に周囲の空気が震えはじめ、彼女の頬を、押さえの無くなったたわわな胸を揺らす。その場の雰囲気に不釣合いな静寂に、プリティライトは不安にかられた。

 そのとき、彼女の周囲の砂が湧き立ち、黄色い霧が直径3mの円柱状に取り巻いた。いや、黄色い霧と思われたものは非常に木目細かい砂の粒子だった。先ほどの砂嵐は目を砂から守ることに苦心したが、不思議なことに今回の砂は視界を悪くはしているが目に直接入ってこようとはしなかった。

『たいそうなことを言った割に、また目くらましなの?』

 目くらましの後の一手を見極めるため、彼女はサンドラーを挑発するように言った。ここに来ての目くらましは不審だったが、砂により自分の裸体が相手の目から隠れている安堵のほうが大きく、それを追求しようとはしなかった。

 そんな安心を見透かしたようにサンドラーは低く笑った。

「くっくっくっ、私の目は砂を透過して見ることができます。貴方の童顔に不釣合いな大きな胸の揺れもしっかりと見えていますよ。」

 自分の心を見抜かれ少し動揺したが、それを表に現す愚は犯さなかった。

 砂塵の壁で相手の姿は確認できないが、その気配で位置は掴んでいる。

(さっきのように何かを相手に仕掛けられる前にこちらから仕掛けないと。)

ジャンプで砂の檻から逃れ、その勢いで大技の一つを相手に叩き込もうとしたときに彼女は自身の異変に気づいた。

(か、身体が動かない。)

 ジャンプのために膝を曲げようとすると、膝の関節でみしみしという音がして動きを制限されていた。指を握るのにもかなりの力が必要とされた。

『な、なに。くっ、こんな。』

あらためて自分の身体に目をやり、彼女は自分がうっすらと黄色く染まっていることに気づいた。更によく見ると今自分の周りを舞っている砂塵が薄く身体の表面に付着しているのが見て取れた。

『こ、これは。このままでは…。』

 直感的に身の危険を察知したプリティライトは、慌てて黄色い霧から逃れようとした。しかし、足は砂で固められているのか動かない。それならばと、手足を擦り合わせて何とか砂を取ろうとしたが、付着した砂のため関節の稼動範囲が通常の1/4ぐらいに制限され、その姿勢をほとんど変えることができなかった。無理やり動かした関節からは砂がサラサラと零れ落ちる。しかし、それ以上の砂塵が彼女に付着していった。

「どうですか?私の必殺技、いや、それほどたいそうなものではないな。そう、私の特技、サンドオブレリクスのお味は?この技には対象を砂で包み固め、内部の対象の時を止める効果があります。ちょうど砂漠の中から砂に埋もれた遺跡が当時のまま掘り出されるように。まあ、相手の息の根を止める戦闘にはまったく向かない、むしろ捕虜を確保するのに適している能力です。生か死かの2択しかない我が組織では無用の能力なので、もっぱら自分の趣味に使わせてもらっています。特に女性を砂の像にするのが楽しくて楽しくて。砂の粒子が貴方を完全に包み込み、粒子が隙間に隈なく詰められることで安定していきます。物理的にも指一本動かせなくなりますよ。そして、完全に砂で覆われ、ジ、エンドです。」

 サンドラーが技の説明をしている間も、彼女は砂塵に覆われようとしていた。いつの間にか足は膝まで砂に埋もれ、たとえ体の自由が利いたとしても脱出は不可能だろう。何とか身体を動かし、砂を取り除こうとするのだが、僅かに関節を動かしことしかできず、肩や頭上に積もった砂や関節部の砂を僅かにふり落とすことしかできない。払い落とす砂より付着する砂の方が明らかに多かった。背や腹では、付着しすぎた砂が重力に従いハラハラと落ちている。口は砂が入り込まないようにギュッと引き締められ、その上から情け容赦なく砂が張り付いていく。身体を僅かに震わせ、まだ辛うじて動く手の指を固まらない様に必死に開いたり閉じたりしている姿は酷く滑稽だった。

 黄色く染まっていく裸体。周囲に舞い踊る砂塵の中でうめき声を上げる彼女をサンドラーはじっと見つめていた。

『うううう。』

 とうとう、手の指も動かすことができなくなった。肘や膝の関節部で砂が噛むギシギシという音と共に砂が零れ落ちている。全身いたる所で付着の許容範囲を超えた砂がサラサラと音を立てて崩れ落ちていった。彼女は変身で得た常人の5倍にもなる力を振り絞り砂の拘束から逃れようとしたが、僅かに砂を揺り落とす程度の効果しかない。時間が経つにつれ、砂の粒子の隙間が詰められていくためか頑強に固まっていった。くすんだ黄色に染まった身体で、唯一目だけが元の色を保っている。

「しかし、私も意図していなかったのですが、なんとも通好みの姿で固まりましたね。裸でファイティングポーズですか。これは、ボスもお喜びになられるでしょう。」

(ボ、ボスとは…な…に…。)

 口を閉じたまま固められたため喋ることはできない。しかし、唯一露出した目は、サンドラーに言いたいことを雄弁に伝えていた。

「すぐにお会いになれますよ。貴方に意識は無いでしょうけれどもね。じゃあ最後に目を覆いましょう。体表を完全に砂で覆われた時点で時間凍結が完了します。貴方のその表情を楽しむために目だけは最後まで残しておきました。それでは、さようなら。お仲間が助けてくれるといいですね。」

(ダーク…。)

 彼女は視界を黄色い砂で覆われた。目の前が暗転し意識もその闇に飲まれていった。最後の瞬間一筋の涙が零れ落ちたが、すぐに頬の砂が吸い込んだ。水の跡を黒く残したがそれも一瞬で、跡形も無く乾き消え去っていった。

 砂漠に佇む砂の像。砂の粒子が細かいため、その魅惑に満ちた裸体の細部に到るまで埋もれることなく表現されている。髪も一本一本砂で覆われ黄色く固められていた。胸は乳首だけでなく乳輪まで確認でき、股間もその複雑な造形を妨げることなくコーティングされている。砂の上からも彼女の無念をにじました表情が見て取れた。

 サンドラーが頬を撫でると砂のザラリとした心地よい感触が返ってきた。

「ボスに献上する前にじっくりと鑑賞させていただきましょう。すぐに相方が助けに来るのでしょうね、プリティダークが。私は楽をさせてもらいましたが、今度は手ごわそうだ。お相手はフリーザンですか。まあ、死なない程度にがんばって素晴らしい氷像を期待しましょうか。」

 

次回予告

囚われたプリティライト。それを助けんとするプリティダーク。待ち構えるGGD幹部フリーザン。

『プリティライトを返してもらう。闇は光がないと存在できないから…。』

「お前と俺は似た者同士…。心に闇を抱える者…。」

次回、『プリティダーク、最大の危機』をお楽しみに!!

 

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