蠢く闇

作:冷凍石

 

「はあ、はあ、はあ。」

 探検隊の仲間とはぐれた考古学者のリリーは、仲間と合流するために、次のキャンプ地へとおぼつかない足取りで向かっていた。

 他のメンバーは幾度も探検に参加し経験を積んでいたが、リリーは今回がはじめての探検だった。珍しい遺跡に気を取られ、調査を終えたときには彼女一人取り残されていた。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 突然、地面が消失し、リリーの身体は足元に現れた漆黒の闇へと飲まれていった。叫び声がそれを追いかけるように響いていく。

 延々と続く落下の浮遊感と、耳を過ぎる風の音が、彼女を包んでいた。

 想像以上に深い落とし穴を、リリーは死の恐怖で身を硬くしながら落下していた。被っていた探検帽が脱げ、肩口で切り揃えられた髪が上方へとなびいていく。

 ビヨヨョョーン!!

 何の予告もなく柔らかい何かに絡み取られたかと思うと、激しく上下に揺さぶられ、リリーは危うく目を回しそうになった。ようやく揺れが落ち着き、自分の状態を確認しようとしたときに、彼女は体が動きにくいことに気が付いた。

 リリーは放射上に伸びた網の真ん中で受け止められていた。体のあちこちにネバネバとした物質が絡みつき、動きを制限している。

(じっとしていても仕方が無いわね。)

 身を起こそうとリリーが上半身を捻ると、背中の布を残したまま探検服が破れ、彼女の白い背中が湿った空気に触れた。

「いやあぁぁぁ!!」

 一際甲高いリリーの叫び声が穴の中に響いた。

 蜘蛛の糸についた粘液は、服を溶かす作用があるらしく、丈夫な探検服が少し身動ぎしただけで、いとも簡単に破れていく。破れてぼろきれとなった布が、それを裏付けるかのように、少しずつ面積を小さくしながら溶けていった。

(溶けてる?溶かされる!!)

 身体を溶かされる可能性に気付き、リリーは必死になって網から脱出を試みたが、最初から肌が露出していた手首や頭部に糸の粘液がしっかりと絡みつき、彼女の自由を奪っていた。幸い粘液に彼女の身体を溶かす効果はなかったようだが、脱出の動きは更なる粘液を身体に付着させることになり、着実に彼女の服を溶かしていった。次第に直接肌に触れる粘液の量が増え、いつの間にかリリーは、裸同然の姿で大の字に蜘蛛の巣へ拘束されていた。

 手足を拘束した粘液は、鉄枷のような固い拘束ではなく、ゴムのようにある程度までは伸縮が可能だったが、収縮する力が強く、気を抜くとすぐに元の大の字へと戻された。

 リリーは拘束から逃れるために、それが無理ならせめて胸と下腹部だけでも隠せるようにと、何度も身体を動かしたが、拘束を外すには到らず、その度に粘液に包まれた面積を増やしながら、大の字という無防備な姿に戻されていた。

 

…十分後。

 数十回の挑戦に疲れ果て、リリーは大の字のまま荒い息を吐いていた。目線の先には、彼女が落ちてきた落とし穴の口が小さく光を覗かせていた。

(自力では外せそうにないわね。仲間に見つけてもらうしか…。)

 ガサリ。

 彼女の思考は、予想だにしなかった物音によってかき乱された。

 彼女が闇の一部だと思っていたものが、突然乾いた音を立てながら毛の生えた脚を吐き出し、八つの黄色い目を光らせた。

(蜘蛛!!)

 咄嗟に相手を刺激してはいけないと声を殺したリリーだったが、その顔には絶望による翳りが色濃く表れていた。この世界に蜘蛛の種類は多いが、人を襲う例は数少ない。せいぜい大きくても手のひら大で、主に毒によって命を奪われていた。古い伝承には人を喰う巨大な蜘蛛の記述がいくつか残されていたが、本当に存在していると彼女は思っていなかった。

(蜘蛛の巣の時点で、当然その主がいることに気付かなくてはいけなかったのに…。)

 彼女は自分の迂闊さに顔をしかめたが、例え気付いていたとしても、どうすることも出来なかっただろう。

 大蜘蛛はその巨体に似合わず、長い足を器用に動かしながら、彼女に近づいて来る。もともと蜘蛛が好きではないリリーには、そのせわしない脚の動きや乾いた足音が不快だった。蜘蛛は無防備な彼女に覆い被るようにまたがり、何を考えているのかわからない人間の頭ほどもある巨大な頭部で、彼女の顔を覗き込んだ。死へ直結した恐怖に、リリーは声を上げることも身悶えすることも出来ず、目を見開いて蜘蛛の顔を見ていた。一瞬の膠着の後に蜘蛛はゆっくりと頭をたれ、口から針のような器官を出すとリリーの首筋に突き立て、何かを注入した。

「クッ!!」

 リリーは首筋に感じる痛みによって、思考能力を取り戻した。

(毒?)

 リリーは、次に襲ってくるであろう苦悶を想像し、全身を緊張させたが、傷口が少し痛む程度で何の変化も見られなかった。大蜘蛛はそれ以上何をするでもなく彼女から離れ、再び巣の片隅にうずくまると動かなくなった。

(さっきのはなんだったのかしら?とりあえず死に到る毒ではなかったようね。)

 ホッと安堵したのもつかの間、新たな刺激が身体の一部に湧き上がった。

(なっ、何?ヒッ、ち、乳首と、く、クリが…、痒い!!)

 リリーの乳首と下腹部の肉芽に、漆の原液を塗り込められたようなすさまじい痒みが湧き上がってきた。しびれるような快感も得ているのだが、痒みに塗り込められ彼女は気付いていなかった。

 無意識のうちに手で掻こうとしたリリーだったが、蜘蛛の巣の粘液に阻まれた。粘液を引きながら乳房の丸みを揉むことは出来るのだが、どんなに力を入れても乳首に指が届くことはなかった。一番長い中指を粘液の糸を引きながら頂点の突起に向かって伸ばすのだが、後少しで届くというところで力尽き、勢い良く元の大の字状態に引き戻された。

 下腹部では、足を擦り合わせてクリトリスを刺激しようとしたが、粘液に阻まれ刺激を与えるまでには至らない。かといって手で掻こうとしても、やはり粘液に阻まれ、臍にすら触れることが出来ないでいた。

(いやだ、痒い、ああ。)

(あと少し、あと少しなのに…。)

 右手の中指がプルプルと震え、腕から粘液を引き伸ばしながら乳首へと近づく。

(届く…、届いて…。)

 5cm…、2cm…、1cm…。指先が突起に触れる寸前に右腕は力尽き、元の位置へと引き戻された。

 粘液に邪魔され肝心なところが掻けないリリーだったが、だからといって耐えられる痒さでもなく、必死に手足を痒みの原因へ伸ばし続けた。

 しかし、粘液は度重なる伸縮に劣化することなく、挑戦のことごとくを阻み、彼女の身体を身悶えさせていた。

 

…2時間後。

「痒い。誰かー。誰でもいい。誰でもいいから、掻いてー。私の乳首とあそこを掻いてー。」

 恥も外聞もなくリリーは、眼上に覗く落とし穴の口に向かって叫んでいた。その声は度重なる叫びのためか掠れている。

 彼女は、全身を汗で滑らせ、息を荒くしていた。疲労に力尽きた手足は投げ出され、ピクリとも動く気配を見せていない。乳首は痛々しいぐらい勃起し、外部からの刺激を求めていた。同様に、肉芽も赤く充血し、プックリと膨らんでいる。その下のクレパスはだらしなく口を開き、中から透明な蜜が尽きることなく溢れ出していた。

 当初の知的な表情が嘘のように、彼女の瞳は焦点なく虚空を見つめ、口の端からよだれを垂らしている。ある程度まで手足を動かせる自由は、彼女の体力と精神を普通の拘束以上に蝕んでいた。

 落とし穴の中は、彼女が全身から発散したメスの匂いで充満しむせ返るほどだったが、彼女は気付く余裕もなかった。時間が経てば収まるかと期待した痒みは更に増し、今も彼女の神経をかき乱していた。

 

 闇が再び動き始める。うずくまっていた大蜘蛛が手足を一本ずつ伸ばすと、ゆっくりとだが彼女に近づいてきた。その多数の複眼が赤く輝き、動きに合わせてゆらゆらと揺らめく。複雑に交差した口の隙間から、黄色い粘度の高い液体がこぼれ落ちていた。

 リリーにはそれが救いに見えた。

(早く来て。あの毛深い足で、私の乳首を、クリを触れてくれればどんなに気持ちがいいだろう。早く、早く私の元に来て。私を、私の乳首を、私のクリを撫でて。

 もしそれが叶わないなら、私を殺して。この地獄から私を救い出して。お願いだから。)

 

 

 蜘蛛はゆっくりとリリーに近づいていった。

 

 

 

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