今回の文章は、ゲームブックの形式を取っています。「No.○○へ進む」をクリックするとそのナンバーが一番上に表示されます。これはと思う選択肢を選んで、読み進んでください。 なお、この文章には残酷な表現が含まれています。(石化後破壊など。)そういうのがダメな人は、下記のリンクよりお戻りください。 また、もう飽きたという人もここまで戻ってきて、上記のリンクからお戻りください。 なお、この文章には複数の挿絵がついています。これは複数の絵師の方々に、厚かましくもお願いして描いていただいたものです。絵師の皆様にはここであらためてお礼を申し上げます。 なお、絵を描いていただく際に、1.小説の挿絵風に白黒で、2.キャラクターの容姿、装備等は大まかなものだけを伝え、それ以外は文章の印象で、とお願いしています。絵師さんによってキャラに違いがあるのは、そのためです。 なお、例によって下記の文章・絵の転載を禁止します。 |
はじめに
主人公はあなたです。あなたは主人公の女剣士となって、怪物や魔法、そして欲望渦巻く迷宮に入り、その最深部にいるという迷宮の主を倒さなければなりません。目的達成への道筋はひとつだけではありません。どの道を選ぶかは、決定するのはあなたなのです。もし、判断を誤れば、目的を達成するどころか、志半ばで倒れることになるでしょう。そのときは、最初に戻って再度挑戦してください。それから、あなたは一人で冒険しているわけではありません。二人の気のいい仲間がいます。彼女らと協力すればどんな困難にも立ち向かえるはずです。がんばってください。
作:冷凍石
あなたは旅の女剣士だ。仲間の女僧侶サーシャ、女魔法使いミネアと共に、一攫千金を夢見て旅をしている。
今回は一夜の宿を求めた村で、仕事の依頼を受けた。依頼主は村の長で、その内容は『村に災いをなす、洞窟の奥深くに潜む主を倒し、村の安全を確保してもらいたい』というものだった。詳しい情報を得ようと村で聞き込みを行ったが、村人達は何かを恐れるように家に篭って姿すら見せようとしない。本来なら情報不足のために回避すべき依頼だが、あなたは多額の報酬に目がくらみ依頼を受けてしまった。洞窟に潜む化け物たちが持つであろうお宝は自由にしていいという条件も魅力的だった。
仲間二人の不満をのらりくらりとかわしながら、あなたは切り立った山の南壁にぽっかりと開いた洞窟へと足を踏み入れた。
No.1
洞窟に入ると乾いた冷たい空気があなたの肌を舐めた。異質な空気に触れ、サーシャがブルリと身体を震わせる。ミネアは、先程までの不満の言葉が嘘のように、洞窟の奥を油断なく見詰めていた。
洞窟は剣を振り被れるほど高く、幅もあなたたち3人が横に並んで歩いても十分な広さがある。壁の所々に松明が灯っているため、かなり先の方まで見渡せた。壁、天井、床、どれも磨かれた石のパネルが複雑に組み合わされてあり、洞窟というよりは通路というのが適当だろう。それは、この奥に潜む主の油断ならぬ実力を暗示していた。
あなたはいつものように先頭へ立ち、その後ろをミネア、最後尾にサーシャと並んで隊列を組んだ。あなたの剣技による突進、ミネアによる牽制または止めの魔法、サーシャによる能力上昇と回復の歌や祈り、それらを効率よく発揮するためには、この隊列が不可欠だ。また、呪文詠唱で無防備になりやすく、肉弾戦が不得手なミネアを守るという役割もある。
洞窟の奥を目指すにあたり、あなたは一度、背後の仲間を振り返った。
苦楽を共にしてきた頼もしき仲間たち。ミネアとサーシャだからこそ、あなたは安心して背後を任せられている。それは同時に、彼女たち二人があなたを信頼し、進むべき道を委ねているということを意味していた。
二人の信頼だけは絶対に裏切れない。あなたは頬を両手で叩き気合を入れると、洞窟の奥へと足を踏み出した。
通路は北へ真っ直ぐに伸びている。少し進んだ通路の右すみには、鎧を来た骸骨が打ち捨てられていた。骸骨の右手には何か光るものが握られているようだ。
さて、あなたは…
A.骸骨に興味を持ち、近づいた。 No.59へ進む
B.骸骨を無視し、通路の奥へと進んだ。 No.13へ進む
(絵:桃色河馬さん)
No.2
水晶像は精巧に作られており、髪の毛一本、歯の形状まで再現されていた。
「綺麗な水晶像ね。」
「それに触ってはダメです!!高い魔力が感じられる…。」
ミネアの忠告を最後まで聞くことなく、あなたは何気なく像に触ってしまった。
「いやっ!!なによこれ?」
像に触れた手から何かがこぼれ落ちるような喪失感を覚え、あなたは思わず像から手を放した。止まることのない喪失感に恐怖を覚えながら、己の手を見る。なんと、あなたの手は水晶になっていた。透明な手を通して床の模様が透けて見える。水晶の侵食は手だけに止まらず、さらに上へと広がろうとしていた。
「ミネア、サーシャ、助けて。」
美しい結晶と化した腕を仲間に伸ばすあなた。しかし、二人はその腕を取ろうとはせず、それどころか後ずさり始める。
ミネアが気の毒そうに言い訳をした。
「ごめんなさい。今、あなたを蝕んでいる水晶化は、伝染する可能性が高いので近寄ることが出来ません。私たち二人にはどうする事も…。」
「そんな…。」
水晶化は腕から肩まで広がると一気に下へと侵食の方向を変え、ビキニ状の鎧も巻き込みながらあなたを透明なオブジェへと変えていった。
「あああ…。」
ブーツの爪先が水晶に変わると、最後に残った首から上の侵食が始まった。透明になりつつある咽喉から、搾り出すような最後の声が発せられた。悲痛な表情のまま、肌が透け、肉が透け、血管が透けていく。髪が根元から水を吸い上げるように透き通っていく。
仲間に腕を伸ばす悲惨な姿のまま、あなたの体は水晶に変わってしまった。
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。
No.3
「キャッ!!」
扉を開けたあなたは、部屋の眩しさに思わず声を上げた。部屋の中が黄金色に輝いている。あなたは手で光を遮りながら中の様子を窺った。
内部は正立方体の狭い部屋だったが天井と壁が金色に塗られている。そして、床には何のためか砂金が敷き詰められていた。北の壁には扉があり、砂金の床を渡らない限りたどり着けないだろう。
さて、あなたは…
A.砂金に足を踏み入れた。 No.52へ進む
B.南の扉を調べた。 No.58へ進む
C.突き当たりの鏡を調べた。 No.15へ進む
No.4
ゴブリン10匹なら楽勝だろう。そう考えたあなたは、剣の柄に手を掛けて群れへと近づいていった。あなたが背後に立っても、ゴブリン達は気付こうともしない。あなたはゴブリン達が何をしているのか、そっと覗き込んだ。
ゴブリン達は、小さな金属片を持ち、なにやら話をしている。ゴブリン語は雑音が多く非常に聞き取りにくいが、どうやら金属片の処分について話し合っているらしい。
さて、あなたは…。
A.ゴブリン達から金属片を奪い取った。 No.8へ進む
B.自分達が処分すると申し出た。 No.14へ進む
No.5
「ひっ、なに?」
目の前のスライムに気を取られていたあなたの頭上から、別のスライムが降り掛かってきた。先のスライムは囮だったらしい。下等な生物に裏を掛かれ、あなたは悔しさで唇を噛んだ。
「やだ…。」
あなたを包み込んだスライムは、グジュグジュと嫌な音を立てながら、あなたを覆い尽くそうと活発に動いている。スライムを振り払おうと色々手を尽くしていたが、ゼリー状の固まりは手応えがなく、ただ疲労だけが蓄積されていった。
ミネアも呪文の詠唱を完成させていたが、取り込まれたあなたが邪魔で魔法を放つことができないでいる。
ジュグジュグジュグ。
あなたの鎧が突然音を立てて溶け始めた。それは当然、あなたの肉体にも及ぶ。
「ぐあああ!!」
ジュー!!
肉が焼けるような音があたりに響く。肌から焼け付くような痛みが伝えられる。溶かされていると思ったが、すぐに間違いだとあなたは気付いた。手の甲が灰色に染まっている。その先にある指も、肌に干からびたようなヒビが入ったかと思うとすぐに灰色へと変わっていった。あなたの体は、石へと変化していた。スライムは、あなたが身に付けていたものをすべて溶かすと、体表を波打たせながらあなたの穴という穴から体内へと侵入していった。既に剥き出しだった手足の大半は石になっており、あなたはその苦痛を伴う肉体の陵辱を甘んじて受ける事しかできないでいた。内部からの侵食は、全体の石化スピードを上げ、あなたはあっという間に全身で苦悶を訴える石像に成り果てた。
残念ながら、あなたの冒険はここで終わった。
No.6
ポタン…、ポタン…。
鍾乳石から落ちる水滴がリズムを取る中、あなたたちは洞窟の奥へと進んでいく。しばらく進んでいくとミネアがあなたに声をかけてきた。
「なんだか、変な音がしませんか?」
「変な音?」
「ええ、何かがこすれるような…。」
あなたは、耳を済ましてみた。
カサカサカサ。
何かが確かにいる!!あなたたちは、それまで壁だと思っていた暗闇に目を凝らした。
「ヒイ!!」
ミネアが小さく息を呑んだ。壁一面にびっしりと黒い虫が張り付いている。折り重なるようにして蠢いているそれは、触覚を小刻みに揺らしながら今にもこちらへ雪崩のように襲ってきそうである。
すばやい判断が必要だ。さて、あなたは…。
A.一気に駆け抜けた。 No.75へ進む
B.ミネアの魔法で焼き払ってもらう。 No.38へ進む
(絵:ハカイダー03さん)
No.7
この小剣だけは手放してはならない。そう考えたあなたは落としそうになっていた小剣をギュッと握り締めた。これが最後と力を振り絞り、触手を逆に引きずり出す。
『裂け裂け、切り裂け、真二つ、スッパン!!』
ミネアが絶妙なタイミングで呪文を完成し、杖の先から放たれた空気の刃は、あなたを拘束していた触手をすべて断ち切った。後ろへ引く力を急に失ったあなたは、転がるように前へ倒れこむ。
「イツツ…。あ、ありがとう、ミネア。サーシャもありがとうね。」
樹液を撒き散らしながら、切られた触手は元の洞の中へと姿を消していく。最後の一本が見えなくなるのを確認し、あなたは最後まで手放さなかった小剣に目をやった。シンプルで何の変哲もない小剣だ。
「これ、どうしよう。」
「何の能力もないようです。」
「じゃあ捨てていくわね。抜き身の刃物は邪魔にしかならないし。」
あなたは、小剣を背後の草むらに投げ捨てた。
再び、静寂が辺りを支配している。先ほどと違って女性の姿はなく、木の幹には四つの洞が口を開けているだけだ。
これ以上ここにいるのは、得策ではないだろう。あなたは…
A.東の洞窟へ足を進めた。 No.46へ進む
B.北の石扉へと向かった。 No.24へ進む
No.8
あなたは腰の剣を抜き放ち、側にいるゴブリンの肩を掴んだ。
「あんたたち、その金属片を渡し…。」
あなたの言葉に振り向いたゴブリン達は、抜き身の剣を見ると、金属片を放り投げて逃げ出した。洞窟の出口に向かって、一目散に走り去っていく。
投げ出された金属片は、弧を描いてサーシャの目の前に落ちた。サーシャは物珍しげに、床に落ちた手の平大のそれを拾い上げる。何か文字が書いているらしく、二つの瞳だけがしばらくの間左右に揺れていた。
「何か判った?サーシャ。」
フルフル。
首を横に振りそれをあなたに渡そうとした途端、彼女の小柄な体が空中に浮かび上がった。サーシャは突然のことに目を見開いて驚いている。
ビリビリビリ!!
見えない手が存在するかのように、サーシャの僧衣が細切れに引き裂かれ、宙に舞い上がっていく。怪現象は、彼女を生まれたままの姿にするまで止まろうとはしなかった。
最後の下着も引き千切られ、サーシャは幼さを残す裸身を空中で晒していた。小振りでまだ硬そうな胸、無毛の下腹部、全体的に線の細い体。それらは成熟した肉体からは得難い、ガラス細工のように繊細な美を湛えていた。
裸身をよじり、なんとか自由を得ようとしていたサーシャだったが、突然弾かれたように体を背後の壁へと押し付けられた。両腕を頭上へ、両足を僅かに開いた無防備な姿で張り付けにされている。凄まじい圧力が壁に向かって掛かっているらしく、サーシャの僅かに膨らんだ胸や頬の肉が引っ張られ、ぶるぶると震えていた。
「大丈夫ですか、サーシャさん!!」
「何が起こっているの?」
普段なら抜群の冴えを見せるあなたの剣技とミネアの魔法だったが、サーシャの体に直接起こる怪現象についてはまったくの無力だった。近寄って触れたり声を掛けたりすることはできても、現象そのものを止めることはできない。
このままでは骨が砕けるのではないかというくらい、サーシャは壁に押し付けられている。彼女の体を心配していたあなただったが、ある時点を境にして彼女の体が縮んでいくような錯覚を覚えた。ありえない。そう思ったあなたはもう一度彼女の体に目を凝らす。そこでようやく、壁の中にサーシャの体が沈み込もうとしていることに気が付いた。
体がじわじわと壁の中に埋め込まれていく。その信じがたい現象にサーシャは涙を流していた。突き出した左手の握りこぶしは震えるほど力が込められていたが、なんら効果をあげていない。あなたも腕を掴んで引きずり出そうと試みたが、まるで埋まり込むことが自然であるとでもいうようにびくともしなかった。
サーシャは、完全に身動きの自由を奪われていた。壁は彼女の裸体を半ばまで埋め込むと、続いて染み一つない肌をざらついた石肌で蝕みはじめた。あなたが握っていた細い腕も石の膜が覆うように硬い無機質へと姿を変えていく。サーシャの浮き出した裸身は、見る見るうちに灰色へと染まっていった。最期に顔だけが残り、自分の運命を悟ったのだろう。恐怖に耐えるようにサーシャは目を瞑っていた。しかし最後の最後で目を見開き、あなたとミネアに助けを求めようと口を開いたところで、完全に石で覆われた。
石の壁を彩るレリーフに、サーシャはなっていた。それは絶望を表した生々しい芸術作品だった。
「サーシャさん、何でこんなことに…。」
ミネアが杖に縋りつきながら、その場にへたり込んだ。あなたは美しい石壁と化したサーシャの腕から手を放し、自分の無力さを噛み締めながら足元へと視線を落とした。
キラリッ!!
あなたの目にゴブリン達の金属片が映る。すべての原因はこれにある。そう考えたあなたはそれを拾い上げた。片面には複雑な幾何学模様が、もう片面には文字が彫り込まれてあった。あなたは文字を目で追った。
『これを読むものに永遠の形をあたえる。』
あなたがそれを読み終えた途端…。
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。
(絵:カモノハシさん)
No.9
扉の向こうは蒸し暑い空気が充満していた。半球ドーム状の空間に、得体の知れない植物が所狭しと蔓延り、風もないのにざわついている。天井からはクリスタル状の鉱石が突き出して眩い光を放ち、室内を照らしていた。
部屋の中央には、背が低く、幹の太い木が青々とした緑の葉を湛えていた。幹に何かが刺さり、光を受けて輝いている。部屋の東端にはポッカリと洞窟が口をあけ、暗い闇を覗かせている。北端には苔生した石の扉が、存在を忘れられたように蔦に巻かれて放置されていた。
さて、あなたは…
A.中央の大木に近寄った。 No.35へ進む
B.東の洞窟へと向かった。 No.46へ進む
C.北の石扉に近寄った。 No.24へ進む
No.10
あなたたちは最初の広間に戻ってきた。
さて、あなたは…
A.水晶像に触れてみた。 No.2へ進む
B.東の錆び付いた銅の扉を開けた。 No.76へ進む
No.11
『くっくっく、実体化の時間をくれてありがとうね、オリジナルさん。』
幾ばくかの時間の後、突然あなたの偽物が薄笑いを浮かべながら喋り始めた。
「どういうこと?」
自分と同じ姿の存在が嫌な笑みを浮かべる様は、見ていて気持ちのいいものではない。あなたの言葉にも幾分嫌悪がこもっている。
あなたの問い掛けに、偽ミネアが本物のミネアなら決してしない相手を見下した表情で答えた。
『鏡から出て間もない期間、私たちの体は不安定でした。しかし、時間をいただいたおかげで、何とか安定しました。ありがとうございます。』
「で、これからどうするつもりですか?戦いますか、偽物さん?」
ミネアもあなたと同じ気持ちなのだろう。言葉に棘があった。
『戦うまでもないわよ。それに偽物と呼ぶのもやめてくれない?これからは私たちが本物だから。』
「なんですって、どういう意味?」
あなたは剣を構えようとしたが、体が動かないことに気付いた。仲間の二人も同様らしい。互いに顔を見合わせている。
『簡単な話です。我々の実体化は、相手の存在感そのものを奪って行われます。わかりにくいですか?簡単にいうとあなたたちはこの世からいなくなり、私たちがあなたたちとして生きていくのです。そして存在を失った抜け殻は鏡になります。まあ、私たちには関係ありませんが。』
「そんな…」
その言葉を裏付けるように、あなたは体内から水銀が滲み出てくるように鏡と化していった。視界の隅ではミネアとサーシャも銀色に包まれようとしていた。鏡面が増えるごとに意識が薄れ消えていく。視界が銀色に包まれた時、あなたという存在は鏡の輝きの中に溶けて消え去った。
『じゃあ、行きますか。ミネア。サーシャ。』
三人はすべてを見届けると、洞窟の出口を目指して歩き始めた。後には、周囲の景色を体に映しこむ三体の鏡面の像が佇んでいた。
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。
No.12
部屋の中は薄暗く、不気味な小道具が所狭しと並べられている。部屋の中央には大きな鍋が火に掛けられており、グツグツと何かが煮られている。
『ようこそ、シャムリーの魔道研究所へ。』
褐色のフードで身を包んだ背の低い老婆が、鍋の前で火加減を調整していた。フードの陰が深く、鋭い眼光以外その容姿はわからない
「こんにちは。」
あなたはその不気味な出で立ちにいささか引き気味だったが、魔法の道具の数々に感動したミネアが親しみを込めて挨拶を返した。
『あんたらはどうやら見所がありそうだねえ。最近の若いやつは礼儀がなっとらん!!いきなり剣を振りかざしくるやつばかり。まあ、そんなやつにはお仕置きしているがね。ひょっひょっひょ!!』
お仕置きの内容は気になるが、どうやらこちらに敵意はないらしい。あなたはホッと胸を撫で下ろした。
「あの、なにをなさっているんですか?」
魔法を使うものとして興味が尽きないのだろう。ミネアがシャムリーに質問した。
『よく聞いてくれたねえ。もちろん魔道の研究さ。ここは研究材料がすぐ手に入るから、勝手に間借りさせてもらっているのさ。』
シャムリーの話は研究内容から最近の出来事までと多岐にわたり、一部理解できない内容もあったが興味深い話も聞けた。彼女の話によると最初は迷宮の主の手によるモンスターが襲ってくるだけだったが、ここ最近は冒険者が襲ってくる度合いが増えたらしい。
『ところで、あんた等も迷宮の主を退治にきた口かい?』
なんと答えようか一瞬考え込んだが、ここまで来て誤魔化しても仕方がないと思い、そうだと正直に答えた。シャムリーは適当に相槌を打ちながらあなたの話を聞いていた。
『ありがとよ、正直に話してくれて。ところで、お茶でもどうだい。』
シャムリーは何かの頭蓋骨で作ったティーカップを棚から取り出すと、紫色の液体を入れてあなたたち3人の前に置いた。紫色の液体は、不透明で青い湯気を立てている。
さて、あなたは…
A.せっかく出されたものなので、鼻を摘んで飲み干した。 No.23へ進む
B.あまりにも不気味なので、丁重に断った。 No.61へ進む
No.13
右手の輝きは気になるが、あなたは骸骨を無視することにした。
決心がついてようやく歩き始めたあなたに、ミネアが声を掛けた。
「これだけの洞窟、いえ、迷宮を作れるほどの存在です。トラップも多いと思います。宝に惹かれる気持ちは判りますが、十分注意してください。前みたいな巻き添えはごめんですから。」
ミネアの忠告を後押しするように、後ろでコクコクと首を縦に振るサーシャ。
「わかってるわよ。あのときのことは悪かったって思ってる。」
懸念を含んだミネアの言葉に少し口を尖らせながら、あなたは通路の先へと進んだ。
No.14
「ねえ、なんなら私たちが処分してあげようか?」
ゴブリン達は突然話し掛けられ、非常に驚いている。その半数はあなたの鎧姿を見て逃げ腰になっていた。しかし、あなたに戦う意思がないことを見て取ると、おずおずと金属片を差し出してきた。
あなたがそれを受け取り調べようとすると、ゴブリンの一匹が制止する。
ゴブリン達の話によると、『この金属片に書かれた文字を読んだものは、死よりも悲惨な末路を迎える。そこで、これ以上の犠牲を出さないために処分することを決め、その方法を相談していたところにあなたが話し掛けてきた。よいアイデアがなかなか浮かばなかったので、あなたの申し出は渡りに船だ』ということらしい。ゴブリン達は素直に喜んでいるようだ。
「いくわよ、ミネア。」
「いいですよ。」
パキン!!
あなたは金属片を空中に放り上げ、剣を抜き放つと真二つに叩き割った。
「今よ!!」
『燃えろよ、燃えろ、火の玉、ボアン!!』
ジュッ!!
ミネアの杖から放たれた火の玉が二つの破片を飲み込み、跡形もなく燃やし尽くした。
喜んだゴブリン達は、迷宮探索のアドバイスをくれた。この先にある水晶像には、近づいてはいけない。理由はよくわからないが近づいてはいけないことになっていると、ゴブリン達は何度も繰り返した。
あなたが礼を述べると、彼らはあなたたちの冒険の無事を祈りながら、出入り口に続く南の通路へと立ち去った。
さあ、あなたたちも北の扉へ向かおう。
No.15
あなたたちが鏡に近づくと、驚くべきことに自分達と瓜二つの存在が待ち構えていた。背後の鏡には、あなたたちの影も、偽物たちの影も映っていない。どうやら、偽物たちは鏡の中から抜け出してきたらしい。
あなたは腰の剣を引き抜き身構えた。
No.16
「サーシャ!!お願い!!あれを受け止めて。」
こくり。
サーシャは小さく頷くと、両手を正面にかざして金の玉を待ち構えた。あなたとミネアはその小さな背中に隠れるようにしがみつく。
ゴロゴロゴロ、ズッシーン!!
サーシャの華奢な体が巨大な球体を受け止めた。踏ん張った足が床にめり込み、二本の靴跡を刻み込む。みしみしとサーシャの筋肉が悲鳴を上げていた。
「がんばって!!」
「がんばってください!!」
応援するあなたとミネア。今の二人には、それぐらいのことしかできなかった。
巨大な球体は、サーシャのおかげでなんとか動きを止めた。しかし、彼女が力を抜けば、再び転がり始めるのは明白だ。
サーシャが困惑の表情であなたを見た。これからどうすればいいのか聞いているようだ。
「ええと…。」
あなたが考えを捻っていると、突然、サーシャの顔に苦悶の表情が浮かんだ。
「どうしたの?」
サーシャは玉を受け止めた自分の腕に目を向けている。あなたは背後から様子を覗き込んだ。
サーシャの腕が、衣類ごと金色に染まっている。金の玉に直接触れている手の平は、半分くらい球体にめり込み、見事に同化していた。黄金の輝きは発疹のようにプツプツと全身に表れ、サーシャの体に広がろうとしている。点はすぐに面となり、瞬く間に広がっていく。
こんな状態になってもサーシャは足の踏ん張りを緩めることはなかった。まだ自由が効く目で背後にいるあなたたちのことに気を配っている。
「ミネア、なんとかならないの?このままではサーシャが…。」
「今の私たちには、どうすることもできません。」
「なんで、ミネアはこんな時も冷静なのよ。サーシャが、サーシャが…。」
「感情的になって怒鳴っていれば、サーシャさんは助かるんですか?」
強い視線があなたを射抜く。ミネアもその視線に気付いたらしく、二人でそちらへ、サーシャがいる方を見た。
彼女は泣いていた。あなたたちが言い争いをしている間も、サーシャの金化は確実に進んでいた。今や彼女が自由になるのは首から上だけだろう。首から下は正視するのが難しいくらいギラギラと輝いていた。
ジリジリと這い上がる金色の境界を無視し、サーシャはひたすらこちらに視線を送っていた。私のことで二人が言い合いするのはやめて!!彼女の目は必死にそう訴えていた。
金化は頬の表面を駆け上ると涙の雫を追い掛け、こぼれ落ちる寸前の雫を黄金の粒へと変えていった。髪の先まで金化が達した時、サーシャは人型の金無垢に成り果てていた。
「サーシャ…。ごめんなさい。」
あなたたちのパーティーは、それぞれの役割が明瞭なため、一人でも欠けると戦力ががた落ちになる。回復の要を失い、もうこれ以上迷宮の奥へ進むことは難しいだろう。
もしかすると、入り口に戻ることすらできないかもしれない。なぜなら、これまで歩んできた通路は、黄金の玉とサーシャの像によって塞がれているのだから。
残念ながら、あなたの冒険はここで終わった。
No.17
ルビーを手に取り、まじまじと観察する。それは本物のルビーだった。これまで数々の宝を見てきたあなたも、これほど大きいのものは記憶にない。
「すごい。」
あなたは手の平に余る巨大なルビーに見惚れていた。あなたの視線はルビーに釘付けとなり、思考もルビーの美しさで占められていった。周りの情報がルビーによって締め出されていく。仲間の二人が何かを叫んでいるが、あなたの耳には届かない。己の体がルビーを握った手から赤く染まろうとしていることにも、あなたは気付かないでいた。
ワインに浸したパンのように、赤い染みがあなたの白い腕を這い上がる。当初赤黒かった染みは、時間が経つにつれて透明感のある鮮烈な真紅に変化していった。
視界も思考もルビーの赤に染められた時、あなたは精巧なルビーの女性像になっていた。松明に照らされあなたの背後に伸びた影も、血のような真紅へと染め上げられている。ルビーはあなたの赤い手からこぼれ落ちると、元在った骸骨の手にスッポリと納まった。あなたの二人の仲間は、ルビー像の前で途方にくれている。
残念ながら、あなたの冒険はここで終わった。
No.18
扉の向こうには通路が北に伸びている。あなたたちは先へ進むことにした。
No.19
壁際の細い道を、壁に手をついて慎重に進んでいたあなたたち一行だったが、道の一部が何者かに抉られたように崩れ去り、これ以上進めそうになかった。
仕方がない。吊り橋を渡るしか方法はないようだ。
No.20
攻撃を仕掛けた自分たちをなぜ?そんな疑問からハーピーを見上げると、ハーピーの方もじっとこちらを見下ろしていた。目と目が合い、質問しようと開いた口を慌てて閉じるあなた。張り詰めた雰囲気が、二人の間を支配する。しかし、沈黙はハーピーの笑い声によって簡単に破られた。
『プッ、プハハハハ。私もハーピーでは粗忽者で通っているけど、あなたたちって、すっごく間抜けですね。あんな不安定な足場で攻撃してくるなんて。ホント脳味噌あるのっていうくらいバカだわ。しかも空中でのあの慌てぶり、人間の貧相な手で空気を掻いたって浮き上がるわけないじゃないですか。もう、たっぷり笑わせてもらいました。』
「わたしたちをどうするつもり。」
酷い言われようだが、事実だけに反論できない。それに、あなたの命はこの失礼なハーピーに握られているのだ。それでも、怒りが言葉の端々から漏れるのは止められなかった。
『そんなに怒んないでください。わたし、これでも褒めてるつもりなんですから。こんな面白人間をここで終わりにしたら世の中の損失ですよね。』
あなたは、今は奈落の底に落ちた吊り橋の向こう岸、新たな通路が口を開く北壁のたもとにゆっくりと降ろされた。先に運ばれたらしいミネアとサーシャがこちらを振り返る。二人も、散々何かを言われたのだろう。これでもかというくらい苦い顔をしていた。
『また、どこか出会いましょう。』
『また、笑わしてくださいね。』
あなたたちの複雑な感情を意にも返さず、ハーピーたちは別れの挨拶をすると羽ばたき始めた。
『ねえ、ここのアルバイトもなかなか面白いけど、そろそろもっと大きいことをしない。』
『大きいことって?』
『国一つに結界を張って、氷漬けとか…。』
『それ、前にやったよ?』
『えー。それじゃ…。』
ハーピーは、再び上空へと舞い上がっていった。
三人は無言で上空を見上げている。その表情はしかめっ面のままだった。ハーピーの影が消えるまで、あなたたちは上空を睨み続けた。
いつまでもこんなことをしていても仕方がない。あなたは踏ん切りをつけるように咽喉から声を絞り出した。
「まあ、一応命を助けてもらったわけだし、気を取り直して行きますか。」
「そうですね。」
脳内の辞書にハーピーは無礼者という言葉を追加し、あなたたちは目の前に口を開ける新たな通路へと足を踏み入れた。
No.21
扉の向こうは、また北へ通路が伸びている。あなたたちは先へと進んでいく。
No.22
箱を開けると、腐敗臭が鼻をついた。あなたは咄嗟に危険を感じ取り、剣の柄に手を伸ばしながら飛び退いた。
ズルリ。
箱の中から何かが這いずり出てくる。それは、スライムだった。下等な生物であるスライムは、動きも鈍く、それほど危険なモンスターではない。魔法なら簡単に一掃できるし、魔法の使えない剣士であっても、細かく切り刻むことで容易に倒すことができる。
スライムはたったの一匹。動きは緩慢で、あなたの剣技でも何とかなりそうである。
あなたは…
A.止めを刺すために、さらに一歩踏み込んだ。 No.5へ進む
B.魔法で焼き払うため、一歩下がってミネアと位置を交代した。 No.73へ進む
No.23
あなたは見るからに不気味な液体を、鼻を摘んで一気に飲み込んだ。
「おいしい!!」
自分の口から発せられた言葉にあなたは驚いた。そのさわやかな飲み心地は、今まで飲んできたどの飲み物にも当てはまらない。
『シャムリー特性のお茶だからね。』
シャムリーは満足そうに微笑んでいる。ミネアが早速、作り方を尋ねるとシャムリーは満足そうに説明し始めた。
『こんなに気持ちのいい客は久しぶりだ。いい事を教えてあげよう。これから先、ホワイトドラゴンに会うことがあると思うけど、決して近寄るんじゃないよ。しばらくしてりゃ、いなくなるからね。それと私のお茶はいいとして、今後迷宮内のものを口にしちゃあいけないよ。よく覚えときな。』
「ありがとうございます。」
あなたが礼を述べて部屋を出ようとすると、何かを思い出したようシャムリーが引き止める。
『ちょっとお待ち!!こんなに気のいいお客を手土産なしで送り出しては、シャムリーの名折れだねえ。そうだ、これも持っておいき。』
シャムリーは木箱の一つをガサガサとかき回すと、一枚の盾を取り出した。盾の表面が鏡になっており、あなたの顔を少し歪めて映し出している。
『これは鏡の盾だよ。あんた等が順調に迷宮の探索を進めれば、メデューサに出会うはずだ。普通に戦えば苦戦は免れないが、こいつさえあれば簡単だよ。さあ、持ってお行き。』
鏡の盾を受け取ったあなたは、再度礼を述べてシャムリーと別れた。
もし、あなたが正体を現したメデューサと戦うことになり、鏡の盾を使いたいと思ったならば、その文章の最初に振られたナンバーをクリックすること。(この文章で言うNo.23の部分。)そのナンバーから15引いた項目ナンバーに自動的に飛び、鏡の盾を使用することができるだろう。
それではT字路に戻り、水音のする東に進もう。
No.24
石の扉へと近づくにつれ、植物の密度が高まりざわめきが大きくなる。
嫌な予感がする。あなたは仲間を急かして、石扉を目指した。
幸い何事もなくたどり着けた。扉の表面には蔦が網の目上に蔓延っている。
あなたは蔦を腰の剣で切り払うと、石の扉を押し開いた。
No.25
扉をあけると通路が真っ直ぐ伸びていた。先へ進むとT字路に行き当たり、道は南北に分かれている。南は先で行き止まりになっているようだ。
あなたは…
A.北に進んだ。 No.34へ進む
B.南に進んだ。 No.53へ進む
No.26
通路はすぐに南に折れ、数十歩先でT字路に行き当たった。東からは水の音が聞こえてくる。西への通路は、南へと緩やかなカーブを描いている。
さて、あなたは…
A.東へ進んだ。 No.66へ進む
B.西へ進んだ。 No.72へ進む
No.27
あなたは腰の剣を引き抜いた。仲間たちはあなたの行動に驚いている。
「どうしました?」
「鏡に映る自分の動きが不自然なのよ。まるで、わざとらしく真似ているように見えたから。そしたら案の定よ。皆、下がって。来るわ。」
鏡の中から浮き上がるようにしてあなたの影が実体化しようとしていた。ミネアとサーシャの写し身も鏡から次々と出てくる。
「ドッペルゲンガーの一種でしょうか?だとしたら、強敵ですよ。私たちと同じ実力を持っているはずですから。なんにしろ、敵で間違いがなさそうですね。」
ミネアが自分の知識で注意を呼び掛けた。さて、あなたは…。
A.勢いをつけて突進した。 No.31へ進む
B.剣を収めて様子を見た。 No.71へ進む
生暖かい風が前方から吹いてくる。そこは明らかに壁の色が違っていた。今、あなたがいる迷宮の石畳に対して、その洞窟は赤黒い土が剥き出しになっている。いかにも不自然な洞窟だが、その奥のほうで何かが輝いていた。
あなたは…
A.奇妙な洞窟へ足を踏み入れた。 No.65へ進む
B.洞窟を無視し先を急いだ。 No.56へ進む
No.29
「下まで一気に駆け下りるわよ。」
「了解しました。」
コクコク。
あなたたち3人は、全力で下り坂を駆け下り始めた。その後を追うように黄金の玉が転がっていく。
どれくらい走っただろうか。坂が終わりを告げ、その突き当たりに扉が見えてきた。
「みんな、扉をくぐれば何とかなるわ。」
「でもこのままでは…。」
今のスピードだと扉を開ける暇はないだろう。扉の取っ手に手を掛け開こうとした途端、押しつぶされるはずだ。何とか金の玉のスピードをゆるめなければ…。
「仕方がないか。相棒、今までありがとう。ゴメンね。」
あなたは腰の剣を抜き放つと、己の足元に突き立てた。床に突き立った剣に、黄金の玉が迫る。
ギギギギギ!!
剣は黄金の玉を受け止め、耳障りな音を立てた。刃がしなり、今にも折れそうだ。
「あまり長くは持たないと思うから、みんな急いで。」
玉が進みを止めている間に、サーシャ、ミネア、あなたの順に扉をくぐっていった。最後になったあなたは、扉を閉める寸前、己が置き去りにした剣を見た。
バキリ!!
とうとう耐えられなくなったのだろう。剣が真っ二つに折れ、黄金の玉は再び転がり始めた。
「何をしているんですか。早く扉を閉めて。」
剣の折れる様を見て放心しているあなたを扉の内へ引きずり込み、ミネアは素早く扉を閉めた。扉を閉じると同時に、凄まじい振動が扉の向こうから伝わってきた。
もう大丈夫だろう。剣を失ったショックを振り払い、あなたはあらためて周りの状況を確認した。
No.30
「ミネア!!お願い!!」
「わかりました。最大級の火の玉をお見舞いしてやります。」
杖を両手で握り、詠唱を始めるミネア。
『来たれ、地獄の業火。渦巻け、爆炎、ドッカンボワン!!』
ミネアの杖から巨大な火の玉が放たれた。火球はハーピーたちに向かって凄まじいスピードで上昇していく。
しかし、ハーピーは二手に分かれ、それを簡単に避けた。火の玉はさらに上昇した後、爆発を起こして掻き消えた。
ハーピー2匹は再び円を描きながら、顔を寄せ合いなにやら話し込み始めた。
「魔法です!!来ます!!」
ミネアが叫ぶと同時にハーピー達の体が輝いたかと思うと、巨大な氷柱があなたたちに向かって降り注いだ。
あなたは軽やかなステップで氷を避けた。ミネアはサーシャを引き寄せ、魔法の障壁を頭上に作り出して防いでいる。
「ハーピーといってもたいしたことな…。」
あなたは最後まで言葉を続けることが出来なかった。
確かにあなたたちは氷柱を避けた。しかし、あなたを支える吊り橋はそれを避けることはもちろんない。氷柱は吊り橋のロープをずたずたに切断し、吊り橋を真二つに引き裂いた。橋はロープに従って左右に垂れ下がり、その破片は滝壷へと落ちていく。もちろん、その上にいたあなたたちも、破片と運命を共にしていた。
無駄と知りつつあなたは空中であがいていた。落下が巻き起こす風圧が恐怖を掻き立て、そうせずにはいられなかった。もちろんそんなことで落下が止まるわけもなく、時間が経つにしたがって滝壷の水音が大きくなっていった。
下が水とはいえ、この高さでは助からないだろう。
ガシッ!!
もうダメだと目を瞑った瞬間、あなたは体が軽くなったように感じた。あなたはゆっくりと目を見開き、己の体を見た。
驚くべきことに、先ほど上空を舞っていたハーピーが、あなたの腕を掴んで上昇しようとしていた。周りに目をやると、あなた同様ミネアとサーシャも、もう一匹のハーピーに手足をつかまれて宙に浮かんでいた。
No.31
「うりゃああああ!!」
あなたは剣を振り被ると、自分の偽者に向かって突進した。しかし、偽者は皮肉な笑いを浮かべてあっさりと身をかわした。
『こんなのが、オリジナルとはねえ…。そんな見え見えの攻撃、簡単に…、ぐぎゃああああああ!!』
ガシャーン!!
あなたは勢い余って、彼らが出てきた鏡に剣を振り下ろしてしまった。壁一面の鏡に亀裂が入り、粉々に砕け散る。
それと同時に偽者たちの体にも亀裂が入り、悲鳴と共に砕け散ってしまった。破片はすべて鏡に戻っている。
あまりにも意外な幕切れに唖然とするあなた。足元に散らばる偽物たちの破片を覗き見ると、小さな自分の鏡影が無数に映っていた。
「鏡の弱点は鏡…か。」
自分と同じ姿のものが悲鳴を上げて砕ける様は、見て気持ちのいいものではなかった。サーシャは偽物たちのために祈りを捧げている。
「見てください。壁の一部が扉になっていますよ。扉の向こうは通路が続いています。」
鏡の跡を調べていたミネアが扉を発見し、その向こう側を覗いていた。
あなたたちは鏡の破片を踏みしめながら、扉を開けて中に進んだ。
No.32
「うりゃー!!」
掛け声と共にあなたは、勢い良く部屋へと飛び込んだ。しかし、目に見えない何かにつまずき、前方へ大きくバランスを崩す。目の前は巨大な鍋が据えられており、あなたは勢い良く顔からその中へ突っ込んだ。勢いはそれでも止まらず、あなたの全身は鍋にスッポリと納まってしまった。鍋の液体があなたの体に付着する。それはドロドロに溶けた蝋だった。熱くはない。蝋の液はボコボコと泡立っていたが、あなたにはぬるま湯程度にしか感じられなかった。蝋独特のムッとする臭いが、あなたの鼻孔を支配していった。
『ようこそ、シャムリーの魔道研究所へ。』
鍋の外から老婆の声が掛かったが、ヌルヌルとした蝋を拭い取るのに夢中になっていたあなたは、それに気付く事はなかった。あなたが部屋に入ると同時に扉は閉まったらしく、外からミネアとサーシャの叫び声と扉を叩く音が小さく聞こえている。
あなたは夢中で蝋を払いのけようとしていたが、次第に奇妙な感覚に囚われ始める。気持ちいい。蝋が触れた肌はジンワリとした熱を帯び、甘い疼きを引き起こしていく。それは少しずつ強くなり、あなたの正確な思考能力を奪っていった。蝋を拭い取る動作が、逆に蝋を肌に馴染ませているという事実に、あなたはまだ気付いていない。
『どうだい、気持ちいいだろう?シャムリー特性の蝋は。熱さを感じさせないからねえ。それにしてもあんたの仲間はうるさいねえ。音を消させてもらうよ。』
パチン!!
老婆が指を鳴らすと、扉からの音が嘘のように消えてしまった。
『この大鍋でも、三人一度に漬け込むのは無理だからねえ。最初に飛び込んだあんたを、まず処理させてもらうよ。』
パチン!!
老婆が再び指を鳴らすと、あなたの真っ赤なビキニの鎧が掻き消えた。続いて剣が、ブーツが、ガントレットが掻き消えていく。
『もう、そんな物騒なものもいらないだろう。あんたは蝋人形になるんだからね。』
老婆の言葉をあなたは聞いていなかった。快楽があなたの思考を完全に奪っている。より快楽を貪るために、鍋に溜まる蝋を両手ですくい上げ、まだ蝋が付着していない部分に擦りつけていた。
老婆は柄杓から鍋の蝋を掬い取ると、あなたの体に掛けていく。蝋が筋となって流れ落ちていく僅かな刺激にも、あなたは熱いと息を漏らしていた。
『そろそろ、蝋が体に馴染んだろう?ポーズをとってもらおうかねえ。』
あなたは蝋の雫を滴らせながら鍋を降り、老婆の前に立つとポーズを取り始めた。あなたは両腕を頭の後ろに回し、胸を僅かに突き出し、両足は肩幅大に開いて動きを止めた。既にその瞳は快楽に支配され、焦点が合っていない。体の表面を覆う余分な蝋が下に落ち、足元に溜まりを作っていく。液化した蝋はヌメルような輝きを放って揺らめいていたが、時間が経つにつれて固まり、艶のない曇りへと変化していった。
老婆は蝋の溜まりに指をやり、十分固まっていることを確認するとあなたの胸に手をやった。
『うん、いいできだ。』
最初、乳房を掴むようにして硬さを確かめていたが、一端手を放すと手の甲でノックを始めた。
コンコン。
低い無機質な音が響く。あなたはその表面だけでなく体の心まで蝋人形と化していた。女性特有の丸みを帯びた肉体は、蝋によって僅かに凹凸を曖昧にしており、その表面はなだらかな曲面のみで構成されていた。髪は蝋で一纏めになり、蝋人形の一つの部品となっている。
老婆は、あなたの目の上に手の平を乗せ、口の中でブツブツと呟いた。手を離すと、あなたの瞳はうつろな生気のないガラス球に変わっていた。
『安心しな。あんたには綺麗な蝋の衣装を着せて、町の蝋人形館で名物になってもらうつもりだから。』
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。
No.33
鏡の壁に近寄ってみた。鏡の中には、あなたたち三人の姿が映し出されている。
「何の変哲もない鏡ですね。」
ミネアは魔力探知のために瞑想していたが、すぐに目を開いた。サーシャは鏡を見ながら髪の乱れを整えている。
その時、あなたは鏡の中の自分に違和感を覚えた。
さて、あなたは…
A.腰の剣を引き抜き身構えた。 No.27へ進む
B.鏡の表面を丹念に調べた。 No.63へ進む
No.34
通路は北へ真っ直ぐと伸びている。あなたの数歩先では西の壁が崩れ、ポッカリと大きな穴が口を開いていた。
A.西の壁に開いた穴を覗いてみる。 No.28へ進む
B.通路を先に進んだ。 No.56へ進む
No.35
大木の目の前まできたあなたたちは、その異様な姿に圧倒されていた。地下に幹の太い巨木が青々と茂っていることにも驚きだが、その木肌から裸の若い女性が半身を突き出していることにはもっと驚いた。女性は手足を木に取り込まれており、壁掛けの剥製のような状態で目を閉じている。たわわな胸が上下していることから、彼女が生きていることは確認できた。肉付きのいい太腿の間には、意味ありげな小剣が突き立っている。
恐る恐るあなたが近づいていくと、突然、女性が目を見開き、あなたに向かって話し掛けてきた。
『助けてください。悪い魔法使いに連れてこられ、気が付いたらこんな姿にされていました。どうか助けてください。』
女性は涙を流しながら助けを求めている。嘘を言っているようには見えない。
「助けてあげたいのはやまやまだけど、どうやればいいのやら…。」
『魔法使いは言っていました。封印の剣が抜けない限り、お前はこのままの姿だと。お願いします。私の下に突き立った剣を引き抜いてください。』
さて、あなたは…。
A.剣を引き抜く。 No.67へ進む
B.剣を引き抜かない。 No.57へ進む
No.36
下り坂は終わり、行き止まりになっていた。正面の壁に扉が付いている。あなたたちは、背後を気にしながら扉の中へと入っていった。
ズシン!!
あなたたちが扉を閉じると同時に、凄まじい振動が扉の向こうから伝わってきた。
もう大丈夫だろう。あなたは、あらためて周りの状況を確認した。
No.37
小剣が木に刺さって封印が成立するなら、投げ捨てればいい。そう考えたあなたは、小剣を力の限り遠くへと放り投げた。小剣は弧を描いて部屋の隅へと飛んでいく。あなたは最終的な脅威を取り除いたことに安堵した。
しかし、あなたの表情はすぐに驚愕で歪む。小剣が矢のように飛び、再びこちらへ戻ろうとしていた。それはあなたの左太腿を掠め、木の幹に突き刺さる。
「力が…。」
力が抜けていく。小剣が突き立った瞬間、あなたは筋肉へ意思を伝える術を失っていた。糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちたあなたは、触手に引きずられるまま巨木へと引き寄せられていった。引きずられていくうちに、鎧や衣類が次々と脱げ落ちていく。脱げないものは触手が器用に剥ぎ取っていった。巨木が目前に近づくころには、あなたは何も身に着けていなかった。
巨木の袂まであなたを引き寄せた触手は、巻きついた手足を洞の中へ引きずり込んだ。洞は手足を引き込むとそれをしっかりと保持するように洞の口を小さくして隙間を無くしていく。洞に取り込まれた手足には、さらに触手が絡みついた。最初、広い空間を感じた洞の中は触手によって満たされ、手足は動きを奪われていった。
指一本動けなくなると、非常に細い触手が肌に突き刺さり、体内へと侵入してきた。それは痛みがないだけに、あなたにとって酷く気持ちの悪いものだった。洞に隠れた皮膚という皮膚から極細の触手は突き刺さり、体内を蹂躙していく。触手の侵入は洞内に取り込まれた部分だけに止まらず、巨木から突き出した胴体部分へも侵入を始めた。足から侵入した極細触手が太腿を辿り、あなたの秘部に到達する。敏感な柔肉を本来はありえない内部から犯し始めた。誰も触れていない秘部が勝手にひくついている。まるで指で弄られているような激しい動きを見せるそれは、滑稽で卑猥だった。腕から侵入した触手は、肩を通り胸へと侵入していった。胸の中を螺旋を描くように駆け上ると、その頂点の突起を刺激する。あなたの胸は見えない誰かに弄ばれているかのように形を激しく変え続けた。
体内の蹂躙はあらゆる器官を嬲り尽くすと首を伝ってその上へと侵入しはじめた。
触手は脳にまで侵入し、組織に傷を付けずに縦横無尽に這いまわった。それに痛みはなかったが、弄られている感覚があるため、言い知れぬ不快感と不安をあなたに与えつづけた。
触手から何かが染み出してくる。それは全身に張り巡らされた触手の表面から分泌され、あなたの体液と交じり合っていった。
気持ちいい。分泌液と体液との混合はあなたに爆発的な快楽を与えた。脳が、神経が、直接その変化に晒され、あなたの意識は苦痛とも快楽ともつかぬ刺激に掻き消されていく。意識を失う直前、あなたは肉体と精神の変質を実感しながら、果たして今度目覚めた時、自分はこれまでの自分と同じ存在だろうかとほんの少しだけ不安になっていた。
意識を失ったあなたはゆっくりと目を閉じると、力なく頭を垂れた。胸と秘部の躍動が激しくなり、秘裂と乳首の先端から小さな蕾が肉を掻き分け姿を現した。蕾は外気に触れた途端、急速に大きく成長し、やがて大輪の花を咲かせた。秘部と乳房の躍動は止まり、それに伴い続いていた体の痙攣も止まった。
再び静寂が訪れた。あなたの乳首の先と秘部からは、真紅の花が大きく開いている。まるで、あなたが愛用していたビキニの鎧のように…。
ミネアとサーシャは変わり果てたあなたを見て、声を無くしている。
残念ながら、あなたの冒険はここで終わった。
(絵:的場無為さん)
No.38
「ミネア、この気味の悪いやつら、焼き払っちゃって!!」
「わかりました。『来たれ、地獄の業火。渦巻け、爆炎、ドッカンボワン!!』」
呪文が完成し、炎がミネアの杖先に現れたとたん、虫たちはミネアの体に殺到した。
「きゃー!!」
悲鳴はすぐに虫によって遮られた。集中を欠いた魔法の炎はすでに掻き消えている。ミネア目掛けて無数の虫が飛び集まり、彼女は瞬時のうちに虫で覆われた黒い人型と化してしまった。凄まじい苦悶を受けているのだろう。黒い人型は、普段の優雅な振る舞いからは想像もつかないようなのた打ち回り方をしていた。
「そんな、炎の光があいつらを刺激したっていうの?」
あなたはミネアの側に駆け寄ろうとしたが、彼女に取り付き損ねた虫が弾丸のように周回していて、近寄ることが出来ないでいた。そうこうしているうちにミネアの動きは次第に弱々しくなり、最後には倒れ付して動かなくなった。
虫たちが、潮が引くようにミネアの体から離れていく。そこには帽子と着衣を食い千切られ、無防備に裸身を晒したミネアが灰色になって転がっていた。灰色?あなたは目に映る光景に疑問を持ち、再度ミネアを見た。しかし、それは紛れもない事実だった。彼女の体は、その大半が灰色に染まる石になっていた。悲惨なことに、まだらに生身の部分が残っており、石化を逃れた指がピクピクと痙攣している。
あなたはその姿を見て、虫の正体を知った。石化虫。生物の体液を吸い取り、石化液を注入する甲虫。十年周期で起こる異常発生の際には、多くの村が石の廃墟と化すという。しかし、それを知ったとしても、事態はなんら好転しそうもない。今の騒ぎで洞窟中の虫が集まってきたのだろうか。今やあなたたちの周りは黒々とした虫の壁で占められており、耳障りな関節の音でひしめいていた。
ミネアはまだ意識があるようだ。石化を逃れた右の瞳には明らかな意思が宿っていた。自分を置いて逃げろという切実なる思いを、その目が訴えている。
しかし、その思いにあなたとサーシャが答えることはないだろう。今や周囲のすべてを覆い尽くすまで集まった虫の群れから逃げ出すことは、物理的に不可能だろうし、あなたには、そしてサーシャもだが、ミネアを残して逃げ出そうという考えは最初からない。
たとえそれがどんなに絶望的な選択であったとしても、仲間を見捨てるよりはましだと、あなたは覚悟を決めて剣を握った。
視界が黒い影で覆われていく。
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。
(絵:ハカイダー03さん)
No.39
通路は真っ直ぐに北へと伸び、緩やかな下り坂になっている。
「下り坂はラクチンよね。」
「上り坂より膝に負担が掛かります。気を付けてください。」
あなたたちは坂道を下りていった。
No.40
任されたミネアは呪文を唱えた。
『開け、こじ開け、扉開け。カッチャリ!!』
ミネアの杖から稲妻のような光が扉に向かって迸る。光は扉に当たると弾けるように掻き消えた。
「どうやら強力な魔法で守られていますね。私の魔法ではダメのようです。」
ミネアは悔しそうに唇を噛んでいる。
あなたは扉を…
A.蹴破ることにした。 No.60へ進む
B.サーシャの怪力で抉じ開けることにした。 No.54に進む
No.41
あなたたちは向こう岸を目指して駆け出した。
ハーピーたちは二手に分かれると、あなたたちを無視して橋の両端に降り立った。
二匹は大きく片足を高く上げ、吊り橋のメインロープに足の爪を掛けた。どうやら、ロープを切って吊り橋を落とすつもりのようだ。自分たちを無視して先を急ぐあなたの選択に、かなりご立腹らしい。
「やめて!!落とさないで!!」
無駄と思いつつもあなたは叫んだ。
ハーピーにあなたの声が届いたのだろうか?ロープに掛けた足をゆっくりと下ろしていく。
話の通じる相手でよかった。そう思ったあなただったが、ハーピーの動きはそこで止まらなかった。
ハーピーは両足で橋の一部を握り締めると、翼を広げて二匹同時に呪文を唱え始めた。
『ため息と息こんこんちき、ストンストーン!!』
吊り橋が両岸から灰色に染まっていく。それはゆっくりとあなたの足元へ近づこうとしている。ミネアが顔を青ざめた。
「石化しています。多分巻き込まれれば私たちも同じ運命をたどると思われます。」
「とりあえず、橋の真中へ逃げるしかないようね。」
ジリジリと石化の境界が迫ってくる。あなたたちは、ジワジワと橋の中心へと追い立てられていった。
あなたはミネアとサーシャの肩を抱きながら、橋の下に広がる奈落の底を覗き込んだ。漆黒の闇が無限の水を飲み込んでいる。
ここから飛び降りても万に一つも助からないだろう。それならば、ハーピーの気まぐれに賭けるほうがまだ助かる確率が高い。あなたはそう判断し、覚悟を決めた。仲間もあなたの決断を敏感に感じ取ったのだろう。その目が同意を示していた。
石化はついにあなたたちの足元に達した。あなたは足先からゆっくりと感覚を失っていく。仲間たちも同様らしく、僅かに眉をひそめていた。
感覚の喪失は次第に上昇し、石化済みの部分からはピシパシと石の弾ける音が聞こえてきた。ヒビが入りつつあるらしい。
「ふふふ、おかしなものね。」
「何がですか?」
ミネアが小首をかしげてあなたを見た。
「石像になるっていうのに、三人一緒って考えると笑いがこみ上げてくるの。出会いも最期も運命的だったてね。」
「わたしもです。ねえ、サーシャさん?あなたもそう思いませんか?」
サーシャはこちらを見上げ笑いながら石と化していた。背が低いからだろう。
「かわいい石像になっちゃって。わたしたちも負けられないわね。」
「飛び切りの笑顔で石像になってやりましょう。」
石化が喉を駆け上がり、頬を撫でる。石の弾ける音を聞きながら、あなたの意識は闇に落ちた。
二匹のハーピーは楽しそうに石像へと近づいていく。そのうちの一匹が動かなくなったあなたに声を掛けた。
『橋は落とさなかったけど、これでよかったかな?』
小首をかしげてあなたを見るハーピー。
『呆れるほど強引な屁理屈だね。』
もう一匹が羽で突っ込みを入れた。
もちろん二匹の漫才は、石と化したあなたの耳には届かない。
巨大な滝を背景に浮かぶ石の吊り橋と、笑みを浮かべた3人の石像。滝の飛沫が石の頬を濡らし、涙のように顎から滴り落ちていた。
残念ながら、あなたの冒険はここで終わった。
No.42
松明の明りで揺らめく通路を注意深く進むと、今度は正方形の広間に出た。
北には巨大な祭壇が設置され、等身大の水晶で作られた女性像が祭られている。西の壁には青い金属で作られた扉が取り付けられており、淡く輝いている。東の壁には青くさび付いたブロンズの扉が取り付けられており、扉の前の床には何か重いものを引きずった跡がある。南に続く通路は洞窟の入り口に続いているが、今更戻ることはできない。
さて、あなたは…
A.水晶像に触れてみた。 No.2へ進む
B.西の青い金属の扉を開けた。 No.25へ進む
C.東の錆び付いたブロンズの扉を開けた。 No.76へ進む
No.43
一息ついて周りを見回したあなたは、再び洞窟の奥を目指し始める。
「ねえ、この鍾乳石、人の形に似てない?」
「ほんとですね。まるで人が驚いているような形をしていますね。」
ミネアがあなたに同意した。サーシャは物珍しそうに、近寄ってそれを眺めている。
「ひっ!!」
ミネアが突然悲鳴をあげた。
「どうしたの?」
あなたが剣の柄に手を掛けながら聞くと、ミネアは恥ずかしそうに首をすくめた。
「すいません。天井からの水滴が襟元に入ったみたいで。」
「なーんだ。驚かさないでよ。あっ!!」
あなたは水滴を頬に受け、思わず手で触れた。悲鳴に近い声を上げてしまい、人のことは言えないとばつが悪そうに俯くと、何気なく濡れた手を見た。
「何これ?」
そこには先程までの無色透明の雫と違い、石灰石そのものを溶かしたような白い液体が、ねっとりとへばり付いていた。指で擦ってみると、ぬるぬるしている。思わず頭上に目を向けたとたん、雨のような雫があなたたちに向かって降り注いだ。
ザー!!
それは声を上げる暇も与えず、あなたの肌を、鎧の表面を濡らしていった。雫を避けようとかざした腕に、乳白色の液体が絡みつき肌の表面を垂れ落ちていく。鎧の燃えるような赤も、白濁した液体で幾重にも覆われ、色を失っていった。
動けない…。
頭上から降り注ぐ雫は、あなたを別のものへと変えていく。液体が触れた部分から順番に、あなたは体の自由を失っていった。液体そのものはまだ表面でドロドロと垂れ落ちているが、その中で息づく肉体は厚い金属で覆われているように身動ぎもできない。開いたままの口に白濁液が溜まり、溢れてこぼれ落ちていく。見開かれた瞳に液が被さってくるが、瞼を閉じることもかなわない。
白い雨はあなたの体を覆い尽くすと、それまでの激しさが嘘のようにピタリと止まった。
ポチャン…。
あなたの頭に雫が落ちた。
上からの供給を断たれた白濁液は次第に流動を止め、周囲の鍾乳石のように湿りを帯びた固まりへと変化していった。肌から伝わる微妙な感覚でそれを知ったあなただったが、身動きが取れない状態ではその変化を甘んじて受けることしかできない。
今あなたは混乱の極みに陥っている。しかし、そんなあなたにも、二つだけ理解できることがあった。一つは今に到るまで助けがない以上、仲間も自分と同じ運命を辿っているということ。もう一つは、自力での脱出は望み薄だということ…。
ポチャン…。
また一つ、あなたの頭に雫が落ちてきた。
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。
(絵:ぶろんずさん)
No.44
最初から敵と決めて掛かる必要はないだろう。そう考えたあなたはハーピーたちが下りてくるのを待ってみた。
程なくして、二匹のハーピーが美しい翼を羽ばたきながら目の前に舞い降りてきた。
『おめでとうございまーす♪』
『おめでとー♪』
甲高い声があなたの耳をくすぐった。
『あなたたちはこの橋を渡る100番目のグループでーす♪』
『100番目の皆さんには特典が授けられまーす♪』
なにやら悪い話ではないらしい。そう判断し警戒を解こうとしたとたん、一匹のハーピーが、呪文を唱えた。
『大地の精霊よ、石の溜息!!』
サーシャの全身が硬直したかと思うと一瞬で灰色に染まった。サーシャの厚手の僧衣も柔らかな頭髪も完全に動きを止めている。サーシャは石になっていた。そしてあなたとミネアも脛から下も灰色の石と化していた。
『もう、だめじゃない。本人の許可なく石にしたら。』
もう片方のハーピーが呪文を唱えたハーピーをたしなめている。
『ごっめーん。ついうっかり…。』
『ほんとにしっかりしてよね。それはともかく、これから貴方達はこうなるんだけど…どうかな〜♪』
『そうそう、記念特典だから…、好きな材質で固めてあげちゃいまーす♪』
足を石にされた状態でハーピーから逃れることは不可能だ。それでも、普段のあなたなら最後の最後まで助かろうと足掻いただろう。
しかし、あなたの口からこぼれたのは、本来ならありえない石化を肯定する言葉ばかりだった。
「真珠にしてもらおうかしら。」
「私は高級感のある大理石にしてください。」
あなたたちは知らなかったのだが、ハーピーの言葉には魅了の効果が秘められていたのだ。本来は歌としてその効果を発揮するのだが、今目の前にいるハーピーは歌うように喋ることで会話からの魅了を可能としていた。
『はーい、ビキニさんが真珠で、三角帽子さんが大理石ですねー。』
『じゃあ、ご希望のポーズをとってくださーい。』
あなたたちは言われるがままに、ポーズを取った。
あなたは腰をひねり、両手で胸をすくい上げるようにして、ビキニ鎧から覗く胸の谷間を強調している。
ミネアのほうはというと、ローブを脱ぎ捨て裸身となり、三角帽子をかぶったまま、呪文を唱えるように両手で杖を握ってポーズを取っていた。普段は冷静なパーティーの知恵袋だが、密かに自分の裸身に自信を持っていたのだろう。魅了によって隠されていた願望が表に出てきたらしい。
『じゃあ、いきますよー。目は閉じてくださーい。目が開いていると目の玉が石化する時に痛みを覚えることがあるらしいですー。』
『じゃあ、呪文いきまーす。』
残念ながら、あなたの冒険はここで終わった。
No.45
扉の向こうは短い袋小路の通路となっている。北の壁には金の扉が、南の壁には鉄の扉がある。突き当りの東の壁は一面が鏡になっており、あなたたちの姿を小さく映している。
あなたは…
A.北の扉を調べた。 No.3へ進む
B.南の扉を調べた。 No.58へ進む
C.突き当たりの鏡を調べた。 No.33へ進む
No.46
蔦や草を掻き分けて、洞窟の入り口まできたあなたたちは、その奥を覗いてみた。そこはこれまでの作られた通路ではなく、鍾乳石が垂れ下がる天然の洞窟だった。壁も床もその表面は湿り、ヌメヌメとした輝きを放っている。所々で蛍石と思われる鉱石が青白い光を放っており、足元程度は確認できそうだ。
不快な熱気に嫌気が差していたあなたは、ひんやりとした洞窟に足を踏み入れた。
No.47
ここはまず安全圏である扉を確保するべきだろう。ミネアが危険に晒されることにはなるが、しかたがない。そう判断したあなたは、足を緩めることなく扉に向かった。
しかし、あと少しで扉に手が届くというところで、緑の蔦がそれを遮った。
「そんな、どこから?」
蔦は地面から突き出していた。獲物を逃がさぬために、地中を通って出口を塞いだらしい。その植物とは言いがたい知性的な行動にあなたは戦慄した。
唯一の出口を塞がれ、呆然としているあなたの体に蔦が巻きつく。蔦は幾重にも巻きつき、自由と希望を奪っていった。
蔦の締め付けに苦悶するあなたの目の前に、宙吊りにされたミネアが突き出された。
「ミネア…。」
ミネアは両手を縛られ、力なく頭を垂れていた。その白い肌には、蔦の締め付けた痕が赤黒く残っている。ローブと三角帽子は身につけているものの、魔法を司る杖はその手から失われていた。
彼女の背後から巨大な袋状のものが現れた。それは人一人を入れることができる大きさで、蓋のようなものがついていた。袋自体は半透明で背後の景色がぼんやりと透けている。
「セキカカズラ!!」
あなたはその植物を知っていた。セキカカズラ。森に潜み獲物を捕らえる危険な植物。蔦で獲物を締め付けて弱らせ、袋状の器官に獲物を取り込み、ゆっくりと石化しながら栄養分を搾り取っていく。長い時では数年に渡って獲物を生かし、ゆっくりと石にすることもあるという。なお、セキカカズラが生きるための栄養は光合成で十分まかなえるため、日照り等過酷な環境下でなければ獲物の摂取は特に必要ない。しかし、好天であっても犠牲になるものがあとをたたないことから、獲物をいたぶる邪悪な意思を持っているのではないかと噂されている。
ミネアの体が高々と持ち上げられ、袋の中へと下ろされていった。
「いけない!!」
あなたはミネアを助けるために踏み出そうとしたが、蔦の拘束は思いのほか強く腰の剣に手を掛けることすらできなかった。サーシャも首を強く締められ、歌うことどころか呼吸すら難しそうだ。
ミネアを袋の中に下ろすと蔦は縛めを解いて外へ出た。蓋がゆっくりと閉じていく。
当初は力なく横たわっていたミネアも、次第に我にかえり必死の抵抗を試み始めた。杖無しで簡単な魔法でも唱えたのだろう。時折袋の中で光が瞬いたが、何の変化も起こらない。足を伸ばし、蓋を何度も叩いていたが、それはぴっちりと閉じられ開くことはなかった。
時間が経つにつれてミネアの動きは鈍くなり、ついには膝を抱えて座り込んでしまう。博識なミネアのことだ。自分の状況を把握し、早々に諦めたのかもしれない。袋の中に怪しげな液体がにじみ出てくるのが、袋の外から見て取れた。
ガサガサ。
蔦の束の中からまた新たに二つの袋が現れた。中に入るものが何かは明白だろう。
残念ながら、あなたの冒険はここで終わった。
No.48
あなたはミネアの魔法で何とかする方法を思いついた。
「ミネア、魔法をぶっ放して!!」
「そんなことをしたら…。」
躊躇するミネア。あなたはさらに言葉を足して催促した。
「バカ正直に玉を狙わなくていいのよ!!途中の天井を狙って!!それなら、大丈夫でしょう?」
「なるほど、わかりました。『燃えろよ、燃えろ、火の玉、ボアン!!』」
ミネアの杖から火の玉が迸った。あなたたちと金の玉との中間点を、魔法の火球が一直線に目指していく。
ズガーン!!
魔法は威力を保ったまま天井へ炸裂し、衝撃音を響かせた。衝撃で石壁が崩れ、瓦礫を床に積み上げる。金の玉は、瓦礫部分で鈍い音を立て、前後に数度揺らめいて止まった。
「縦横いっぱいいっぱいで転がってくれば、障害物があれば詰まっちゃうはずでしょ。」
「なるほど。さすが、冷静な判断です。」
「まっかせなさーい♪」
あなたが自慢げに胸鎧をポンと叩くと、金の玉が再びグラグラと揺れ始めた。
「と、とにかく、今のうちに駆け下りましょう。」
「そ、そうですね。」
コクコク。
あなたたちは全速力で下り坂を駆け下り始めた。
No.49
余計な騒ぎを起こすのはまずいと判断したあなたは、足音を忍ばせて北の扉へと近寄った。幸いゴブリン達はこちらに気付く様子はない。あなたたちは扉の前まで到達すると静かに扉を開け、中へ体を滑り込ませた。
No.50
コンコン。
あなたは扉をノックした。
『鍵は掛かってないよ。とっとと入りな!!』
老婆の声で返事が返ってくる。あなたたちは声に従い、扉を開き中に入ることにした。
No.51
しばらく進むと通路は東へと折れ曲がっていた。
シュルシュルシュル
曲がり角に差し掛かると、何かが這いずる音が背後から迫ってくる。あなたは後ろを振り返った。
「ひえええ!!」
緑の蔦が通路を埋め尽くすように蠢いている。それは荒れ狂う鉄砲水のようにこちらへと迫ってきていた。
あの数と量では、如何なる攻撃も決定的な効果は上げられないだろう。
「逃げるわよ!!」
しばらく走っていると通路は扉で行きどまりになっていた。あの扉をくぐれれば、何とかなるだろう。
ドアまであと数歩というところで、ミネアが床に足を取られ転倒した。このままでは緑の奔流に飲まれてしまう。
さて、あなたは
A.ドアをくぐり、体制を立て直す。 No.47へ進む
B.腰の剣を抜いてミネアを助ける。 No.62へ進む
No.52
あなたは砂金に足を踏み入れた。
ザクザクザク…。
砂金があなたの足元で小気味よい音を立てる。あなたの体は砂金の反射で黄金色に照らされ、赤の鎧はオレンジ色に染められていた。
後の二人もあなたに釣られ、おずおずと足を踏み入れようとしたところで、それは起こった。
「あれっ?」
最初は砂に足を取られただけだと思った。しかし、そんな生易しい事態ではないことにあなたは気付かされることになる。
「ひっ、いやあああああ!!」
あなたの両足は、いつの間にか脛まで埋まっていた。
ズズ、ズズ…。
あなたの体は少しずつ砂金に埋没しようとしている!!
さて、あなたは…
A.自力で脱出を試みた。 No.74へ進む
B.仲間に自分を見捨てるよう指示した。 No.70に進む
No.53
しばらく進むとそこは行き止まりになっていた。腰まである大きな木箱が据えられている。
あなたは…
A.通路を引き返した。 No.69へ進む
B.木箱を開けてみた。 No.22へ進む
No.54
あなたはサーシャと場所を交代するため、一歩退いた。小柄で華奢な印象があるサーシャが、ドアノブに軽く手をかける。
ギ、ギギギギギギギギギギィ…。
金属が擦れる不快な音と共に、あなたがあれほど力を入れても動かなかった扉が開いていく。しかし、サーシャに力を込めている様子は無い。
「いつもながら、すごい力ですね。」
「ちょっと、ミネア。サーシャみたいなかわいい子に、そんなのは褒め言葉になってないわよ」
「あっ…。すいません、サーシャさん。」
あなたが注意するとミネアは素直に謝った。サーシャは笑いながら首を横に振り、彼女の言葉を許していた。
開いた扉の奥へと、あなたは足を踏み入れた。
No.55
吊り橋は思ったより頑丈で、3人が乗っても僅かに軋むだけだった。
滝の飛沫でびしょ濡れになることを覚悟していたあなただったが、ミネアが魔法で障壁を作り出し、無限に降り掛かる水滴を弾き飛ばしていた。
「魔法って便利なものね。わたしも習おうかな。魔法剣士って、なんかかっこいいし。」
「無理ですよ。私が教えた簡易魔法すら使えないじゃないですか。才能がないとしか思えません。」
「それは、教え方が悪…、ううん、なんでもない。」
凄みのある睨みに怯んだあなたは、咽喉元を過ぎようとする言葉を思わず飲み込んだ。
ちょうど橋の中程まで進んだころに、上空からこちらに向かってくる2つの影をあなたは発見した。円を描きながら、確実に降下している。
「ハーピーだわ。」
「厄介ですね。」
ミネアが露骨に嫌な顔をした。あなたの知識では、ハーピーは非常に危険な生物だった。魔法による合成生物という説が一般的だが、正確な起源についてはまだわかっていない。雌性しかなく、人並みの知能を持ち、強大な魔法を自在に操る。非常に気まぐれで、身勝手な考えを持っており、思いつきで一つの国を滅ぼしたこともあるらしい。凶暴というわけではないが、できればあまりお近づきにはなりたくない手合いだった。
今ならかなり距離が離れている。こちらに気付いているようだが、ミネアの魔法なら先制攻撃を掛けることができるだろう。危険は排除するのも、一つの選択かもしれない。
さて、あなたは…
A.吊り橋の残りを駆け抜ける。 No.41へ進む
B.降りてくるのを待ってみる。 No.44へ進む
C.ミネアの魔法で先制攻撃を掛ける。 No.30へ進む
No.56
北へと続く通路は、扉で行き止まりになっていた。
あなたは扉を開き、中へと足を踏み入れた。
No.57
気味が悪い。そう感じたあなたは助けを求める声を無視して別の場所へ向かうことにした。
A.東の洞窟へ足を進めた。 No.46へ進む
B.北の石扉へと向かった。 No.24へ進む
No.58
取っ手に呪文を刻んだ鎖が幾重にも巻かれており、あなたでは開けることができそうにない。ミネアとサーシャも視線で無理だと訴えている。
あなたは鉄扉を諦めると…
A.北の扉を調べた。 No.3へ進む
B.突き当たりの鏡を調べた。 No.15へ進む
No.59
あなたは骸骨の前まで来ると注意深く観察した。それは朽ちた鎧を身に纏っており、遺体となってから何年も経っているらしい。通路自体が塵一つないほど綺麗なだけに、あなたは違和感を覚えた。骸骨の手には血のように赤い大きなルビーが握られている。
あなたは…
A.ルビーを手に取ってみた。 No.17へ進む
B.危険を感じ、先に進むことにした。 No.13へ進む
No.60
あなたは扉から一旦離れ、呼吸を整える。
「よし!!」
一声気合を入れると、渾身の力を込めて蹴りを放った。
ピカッ!!
突然、青錆びが出ていた扉が突然輝き、あなたは右足振り上げたまま動きを止めた。
あなたは身に付けたビキニの鎧ごと、緑青の錆びで覆われたブロンズ像になっていた。あなたは蹴りを放った直後だったため、足を惜しげも無く開いており、引き伸ばされ密着した股布が内に秘める秘所の形状を薄っすらと浮かび上がらせている。その微細な形状までもが、ブロンズ像として再現されていた。
クワン、クワン、クワワワ〜ン。
バランスが悪かったのだろうか。ブロンズ像は右に傾くと、音を立てて床に転がった。
「こんな錆び付いた扉に、なんでこんな手の込んだトラップが…。」
ミネアの呟きは、ブロンズ像と化したあなたの耳には届かない。
残念ながら、あなたの冒険はここで終わった。
(絵:桃色河馬さん)
No.61
『そうかい、美味しいのにねえ。』
シャムリーは残念そうに食器を片付けはじめた。
少し気まずくなったので、あなたたちは部屋を辞することにした。その旨を告げると、シャムリーは扉の前まで見送りに来た。
『研究ばかりで行き詰まっていてね。いい息抜きになったよ。そうだ、せっかく来たんだから探索のアドバイスをしてあげよう。この先、ホワイトドラゴンに出くわすはずだが、決して戦うんじゃないよ。しばらくすれば居なくなるからね。』
「ありがとうございます。」
あなたは丁重に謝辞を述べて、部屋を出た。通路を戻り、水の音がする東へと進んだ。
No.62
腰の剣をすっぱ抜き、ミネアに絡みつこうとしていた蔦を切り払う。
「ありがとうございます。」
「ここは私が食い止めるから、悪いんだけど呪文をお願い!!」
あなたは、蔦を切り払いながらミネアに指示を出した。
「えっ、でも魔法なんて…」
「なんでもいいから、こいつらを怯ませて!!ちょっとだけでいいから!!」
「わかりました。『火球、小球、分身、ボボボボボンボン』。」
ミネアが呪文を唱えると、無数の火球があなたを避けて、蔦の束目掛けて襲い掛かっていった。火球は当たると同時に爆ぜて、蔦を吹き飛ばした。
一瞬だけ蔦の勢いが怯んだ。
このチャンスを見逃すわけにはいかない。あなたは剣を手にしたまま、ミネアを突き飛ばすようにしてサーシャが開いた扉へと転がり込んだ。
サーシャが慌てて扉を閉じる。扉が完全に閉まった事を確認し、あなたはようやく安堵した。
扉の向こうでは獲物を手に入れそこなった蔦が蠢いているらしく、不気味な音が扉越しにいつまでも聞こえていた。
No.63
あなたは鏡の表面を丹念に調べ始めた。ほんの僅かだが、鏡の中の自分に歪みを見つけたからだ。あなたが舐めるように鏡を眺め、ある箇所を拳で叩くと、鏡の一部が扉のように開き、その奥に通路が続いているのが見えた。
「さすがリーダー。お手柄です。」
「まっかせなさーい♪」
いささかはしゃぎ気味ながら、あなたは鏡の扉をくぐった。
No.64
仲間たちは顔をしかめたが、あなたは焦げ跡の探索を開始した。宝箱の燃えカスを手に取るとボロボロと崩れ落ち、炎の猛威を実感させる。
床を舐めるようにして調べたが何も見つからず、無駄骨だったかと頭上を仰ぎ見た時、天井の隙間に光り輝く金属片が挟まっていることに気が付いた。腰の剣を抜き放ち、その切っ先で金属片を穿り出すと、手の平に収まる大きさのそれをまじまじと見た。あなたの知らない文字で何かが書いてある。あなたはパーティーの知恵袋であるミネアに金属片を渡した。どうやら古代文字だったらしい。
「なになに?『無限に続くものは無し。直進、右、左、直進、左。いや、やっぱり引き返せ。』?何でしょうか、これは?」
フルフル。急に話を振られたサーシャは、困惑の表情を浮かべて、首を横に振っている。
「なんかのヒントじゃないかしら?とにかく先を急ぎましょう。」
あなたは、その内容を記憶に止めながら、通路を引き返すことにした。
No.65
あなたたちは光り輝くものを目指して洞窟の奥へと足を踏み入れた。しかし、いつまで進んでも、光の元が近づいてこない。ふと後ろを振り返ると、入った当初は円く開いていた洞窟の入り口が消え去り、ただの行き止まりになっている。
「閉じ込められた?」
「みたいですね。」
あなたの呟きにミネアが同意すると、突然地面が洞窟ごと揺れ始めた。それと同時に今まで赤土だと思っていた壁面が、粘液を滴らせる赤い粘膜へと姿を変えていく。
ボタリ。
生暖かい液体が肩に掛かり、あなたは払いのけようとしたが、液体の落下はそれだけでは止まらず、あなたの全身を覆い尽くしていった。
「魔力が…、奪われていきます…。」
ミネアが苦悶の声を上げているが、あなたにもそれに応える余裕はない。穴の開いた風船のように粘液の触れた部分から体の力が抜けていく。立つことも辛くなり四つん這いになると、粘液が膝元まで溜まっていたため、体の大半を粘液に漬ける形になった。
力をすべて奪われ粘液の海に顔を突っ伏す直前、あなたは以前酒場で聞いたワームの話を思い出していた。
『世にはワームという巨大な環形動物がいるそうですよ。そいつは地面や崖の壁面で口を開け、洞窟を模して獲物を誘い、じっと待っているらしいですね。獲物が口の中へ入ったら、口を閉じて生物から体力だけを取り出す粘液を体内に分泌するそうです。粘液で体力を奪われた獲物は、魂を封じられた肉人形に成り果て、二度と元の体に戻ることはないらしいですよ。ワームは決まった場所に残りかすを吐き出すから、その場所さえ知ることができれば、永遠に腐ることはない精巧な人形を手に入れられるってわけです。そうして手に入った人形は、金持ちに高額で売れるって聞きました。お嬢さん方も、ワームの作る人形を探してみてはどうですか?』
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。
No.66
通路を進むにつれて水の音は大きくなってくる。突然目の前が開け、巨大な滝が目に飛び込んできた。
そこは、地下とは思えない円形の広い空間だった。西には、巨大な滝が飛沫を上げて水を落としている。滝口、滝壷共に霞で覆われていることからも、その巨大さが窺い知れる。
現在、あなたは南壁の端に立っており、背後には今まで歩いてきた通路が口を開けている。向かいの北壁に同じような通路が口を開けているが、そこに到る道は二つある。一つは飛沫を避けるように東の壁に沿って北壁へと続く道で、滝に面した側は切り立った崖になっている。もう一つはまっすぐに伸びている吊り橋で、こちらを選択すれば水に濡れるのは避けられないだろう。
さて、あなたは…
A.東を迂回する道へと進んだ。 No.19へ進む
B.吊り橋を渡った。 No.55へ進む
No.67
「ありがとう。やっと、やっと自由になれる。本当にありがとう。」
それだけ言うと再び女性は頭を垂れた。それと同時に、彼女の体が木に接している部分から順に灰色へと変化していく。完全に灰色に染まった途端、手足が崩れ、滑り落ちるように胴体がドサリと地面に落ちた。驚いたことに彼女は灰になっていた。灰は人型を保つことができず、地面にぶつかった拍子に、その半分が砕けて空気中に舞い上がった。
「そ、そんなことって…。」
自分の行為が引き起こした結果に愕然とするあなた。仲間の二人も押し黙ったまま声も出せない。
シュッ!!
女性の右手が抜け落ちてできた洞から蔓状の触手が伸び、あなたの小剣を持つ手に巻きついてきた。
「きゃっ!!」
残り3つの洞からも、それぞれに対応した手足へと触手が伸び、巻きついていく。
あなたは必死に抗うものの触手の力は予想外に強く、ジリジリと巨木のほうへ引きずられていった。
仲間達も手をこまねいて見ていたわけではない。ミネアは杖を両手で握り、いつでも魔法を発動できるよう構えてタイミングを計っている。サーシャは祈りの歌を詠唱していた。
右腕に巻きつく触手があなたの手首を強く締め上げてきた。このままでは木から引き抜いた小剣を落としてしまいそうだ。
その時、体に力がみなぎってくるのをあなたは感じた。サーシャの歌が効果を表してきたらしい。この期を逃がすと、脱出の機会は二度と得られないだろう。
さて、あなたは…。
A.小剣を遠くへ放り投げた。 No.37へ進む
B.小剣を握り直し触手に抗った。 No.7へ進む
No.68
通路が突然開け、広い空間にあなたは足を踏み入れた。
天井は通路と変わらない高さだが、東西に細長い長方形の空間になっている。先の北壁には木製の扉が見えており、それとあなたの後ろに続く通路以外出入り口はないらしい。本来は通路と同じく小奇麗だったであろう床は、残飯やゴミで汚れている。あなたは自分の背後で、きれい好きのミネアが顔をしかめていることを確信し、小さなため息を漏らした。
部屋の中央では、汚れの原因と思われる邪悪な妖精ゴブリン10匹ほどが、輪になって集まり何かに夢中になっている。そのため、あなたたちの存在にまだ気付いていない。
さて、あなたは…
A.足音を忍ばせて北の扉へと向かった。 No.49へ進む
B.ゴブリンの群れに近づいた。 No.4へ進む
No.69
あなたは再びT字路に戻ってきた。東に進むと水晶像の在った広間に続いている。
あなたは…
A.北に進んだ。 No.34へ進む
B.東に進んだ。 No.10へ進む
No.70
「もう私はダメ!!二人とも、私のことはいいからここから脱出して。私たちのパーティーは一人でも欠けたら戦力ガタ落ちだから…。」
「何をいっているんですか?いつもの元気はどうしたんですか?」
あなたの体は少しずつだが、確実に砂金の中へと沈み込んでいる。
「ごめん、私リーダー失格だよね。今まで迷惑ばかりかけてごめんね。あなたたちならもっといい仲間を探せると思うから。」
サーシャは涙ながらに首を横に振っている。砂はすでにあなたの太腿を半ばまで飲み込んでいた。
「笑えない冗談はやめてください。…そうだわ。」
ミネアは腕組みをして考えていたが、何かを決心するとカッと目を見開いた。
「いちかばちか魔法で金の砂を吹き飛ばします。」
あなたはミネアの言葉に驚いた。こんな狭い部屋で重い砂金を吹き飛ばす魔法を使ったら…。いや、普通の砂ならミネアはやり遂げるだろう。しかし、今回の相手は砂金。金は魔法を活性化させる触媒の性質を持っている。微妙な調整など不可能に近い。
「ダメよ!!そんなことをして、もし失敗したら、あなたたちまで吹き飛んでしまうわ。そんなのダメよ。私は見捨てていって!!」
あなたの体は太腿の付け根まで砂金に埋もれていた。
「覚悟の上です。ねえ、サーシャ。いいでしょう。もうこれしかないの。」
サーシャは当然というように、深く一回頷いた。
「だめよ。やめて。」
あなたの静止の言葉を無視して、ミネアは呪文を唱えた。
「いいえ、いきます。『風よ吹け。嵐よ来い。すべてを飛ばせ。ビュルルルルル!!』。」
ゴウ!!
風が渦巻き、砂金を巻き上げる。金の嵐に飲まれ、あなたたち三人の姿を覆い隠していった。
No.71
あなたは剣を鞘に収めた。
「なっ、何をしているんですか?」
「相手は私の影よ。影ならばある程度動きを操れると思うから。こちらが動かなければ、向こうも動かないわよ。」
あなたは自信を持ってミネアに答えた。疑わしそうな表情のミネアだったが、偽物たちが動きを止めているため何も言わないでいる。
時間だけが刻一刻と過ぎていった。
No.72
通路は南へ緩やかにカーブを描き、扉で行き止まりになっている。扉の前で耳を澄ますと何か歌のようなものが聞こえてきた。
さて、あなたは…
A.引き返し、水の音がする東へと進んだ。 No.66へ進む
B.剣を引き抜き、中に飛び込んだ。 No.32へ進む
C.ノックをして、入室許可を取った。 No.50へ進む
No.73
あなたが下がると同時に、ミネアが杖を掲げながら呪文の詠唱を完成させた。
『来たれ、地獄の業火。渦巻け、爆炎、ドッカンボワン!!』
ゴゴゴゴゴゴウ!!
ミネアの杖からあなたの脇を掠めるように、巨大な火球が放たれた。炎に触れたスライムは勢い良く燃え上がり、表面に激しく気泡を作り出しながら、その姿を小さくしていく。炎は付近一帯で暴れまわり、天井の隙間から出てこようとしていた別のスライムも巻き込んでいった。
スライムが燃え尽きると、炎も消え去った。辺りは焦げた臭いが充満している。床、壁、天井は焦げ付き、スライムの入っていた宝箱は燃え尽きて跡形もない。
あなたは…
A.周辺を調べてみた。 No.64へ進む
B.余計な事をせず、道を引き返した。 No.69へ進む
No.74
「流砂!!」
砂金はあなたを中心にして渦を作っていた。あなたの体はすでに腰まで沈み込んでおり、蟻地獄に嵌った蟻のようにもがく事しか出来ない。砂に手をついて脱出を試みるが、砂の中に埋没した部分は歯車に噛み込まれたよう動かなかった。仲間たちも色々と手を尽くしてくれていたが、ロープは砂の渦が時折上げる飛沫に遮られ、魔法は金特有の魔法触媒作用で効果の調整が難しく放つことができないでいた。
砂金はあなたの腰を飲み込み、さらに胸へと迫っていた。身動きの取れなくなっていく体と目線に近づいてくる砂金の広がりが、あなたの心にいいようのない恐怖を膨らませていった。
砂金は一瞬、あなたのたわわな胸を鎧ごと押し上げると、吸い込むように飲み込んでいった。今やあなたの体で外に出ているのは首から上と杭のように突き出した両腕だけである。
「いやー!!うぶぶ…。」
そこから先はあっという間だった。砂糖が水に溶けるようにあなたの姿は砂の中へと飲み込まれてしまった。両手の指は最後まで何かを掴むかのように動かしていたが何の効果も上げられなかった。あなたの姿が完全に見えなくなると砂金の渦は瞬時に消え、先程までの喧騒が嘘のように静まり返った。
あなたは砂金に飲み込まれてからも意識が残っていた。全身が埋没すると砂はあなたの体を揉み洗うように全身の肌を擦り上げていた。砂金は鎧の隙間にも入り込み、あなたの膨らみや突起、あなたの敏感な部分やさらにその中にまで侵入してくる。息苦しさから僅かに開いた口の隙間からも砂金は流れ込み、あなたの体の隙間を埋めるように体内を満たしていった。
体と心が満たされていく不思議な満足感を覚えながら、あなたの意識は金色の光の中に溶け込んでいった。
静寂を取り戻した砂金が突然吹き上がり、ミネアとサーシャは思わず目を閉じた。二人が目を開くと、そこには黄金に染まったあなたが、両腕を上に伸ばした哀れな姿を晒していた。穏やかな表情が唯一の救いだろう。
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。
No.75
「一気に駆け抜けるわよ!!」
「了解しました。」
あなたたちは全速力で駆け出した。サーシャが蹴躓きそうになるのを引っ張り上げながら、あなたは洞窟の奥へと必死に走った。
意外にも虫たちはその場で蠢くだけで、後を追ってはこなかった。
「はあはあはあ。」
「はあはあ、何だったのでしょう?」
「はあ、どうだっていいわよ。とにかく逃げられたようだから。」
荒い息をつきながら、あなたは後ろを振り返っていた。
No.76
錆びでささくれだった扉のノブにあなたは手をかけた。何度か力を入れてみても、ギシギシと軋むだけでドアは開こうとしない。
あなたは扉を…
A.蹴破ることにした。 No.60へ進む
B.ミネアの魔法でこじ開けることにした。 No.40に進む
C.サーシャの怪力で抉じ開けることにした。 No.54に進む
No.77
どれぐらい坂を下っただろうか?
ゴロゴロゴロ…。
背後から何かが転がる音がする。あなたは気になって坂の上を振り返った。
「何よ、あれ?」
通路を塞ぐように、巨大な黄金の球体が、ゆっくりとこちらに転がり下りようとしていた。金の玉は次第に速度を速めようとしている。
「ひえええええ!!」
早急にどうにかしないと、このままでは黄金の球体に押しつぶされてしまうだろう。
「あの玉はどうやら金でできているようです。知ってのとおり、金は魔法の触媒的働きをするため、魔法を直接使用するのは制御の関係で難しいと思われます。」
ミネアはこんな時でも冷静だ。
さて、あなたは…
A.サーシャに受け止めてもらう。 No.16へ進む
B.全速力で坂を下りる。 No.29へ進む
C.ミネアの魔法で何とかする。 No.48へ進む
No.78
あなたが目を覚ますと、ミネアとサーシャが心配そうに覗き込んでいた。
「気が付きましたか?」
「二人とも無事だったのね。よかった。」
周囲を見回すとそこは草原だった。太陽の光がまぶしい。どうやら洞窟の外に出ているらしい。
「ここまで連れて来てくれたのね。ありがとう。」
そう言って立ち上がろうとしたが、足がいうことを聞かない。二人の顔を見ると申し訳なさそうに下を向いている。あなたは自分の足を見た。
あなたの足は金色に輝いていた。あなたの足は金になっていた。冷たく輝く脹脛から太腿にかけて触れてみる。生命力を感じさせない金属特有の冷たさが、触れた右腕から伝わってきた。何度も何度も擦ってみるが、硬く冷たい手触りしか返ってこない。あなたは自分の両足が永遠に失われたことを悟った。
「足の金化が直接生身の部分に影響することはないと思います。専門ではないからはっきりとは言い切れませんが。それから金化の解除についてですが…。」
「無理でしょうね。ここまで変化してしまっては。それぐらいなら剣士の私にもわかるわよ。」
「サーシャの祈りでも無理だそうです。申し訳ありません。」
小柄なサーシャがさらに小さく見える。あなたは無理やり笑顔をつくって二人を元気付けた。
「気にしないで。自業自得だもの。でも、これで剣士も廃業ね。こんな体じゃ、あの人も振り向いてくれそうもないし、宿屋でもしようかな。幸いお金は今まで溜め込んだ分があることだし。冒険者向けの宿屋ならやっていけそうだしね。」
「じゃあ、私はとなりで魔道ショップでも開きます。えっ、サーシャは教会を作りたいって?」
コクコクと首を縦に振るサーシャ。
「別に私に付き合わなくていいのよ。」
「私もサーシャもそうしたいからするだけです。」
ミネアに同意し、サーシャはコクコクコクと激しく首を縦に振っている。サーシャはあなたの手を取ると、軽々と背中に引っ張り上げた。突然背負われ、あなたは戸惑いの声を上げる。
「なっ、何を?」
「善は急げですよ。早速、下見に出かけましょう。」
ミネアの掛け声に、サーシャは歩みを速めた。
あなたはサーシャの背中で二人に見えないように泣いていた。一人では這いずることしかできない自分を気遣う、仲間たちの温かい心に…。
残念ながらあなたの冒険はここで終わった。